甲状腺機能低下による高コレステロール血症

脂質異常症に脂質低下剤が処方されなかった理由
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変


◆Question

42歳 女性
採血の結果、甲状腺のホルモンが少なかったそうで、ホルモン剤を出されました。
もともとコレステロールが高いということで病院にかかったのですが
肝心のコレステロールの薬は出ていないようです。先生の出し忘れでしょうか。
また、たばこをやめるように言われたのですが、なぜですか。

処方せん
チラーヂンS錠25 1錠
 分1 朝食後 14日分


◆服薬指導

コレステロールが高くなった原因は、甲状腺のホルモンが不足していることのようです。
チラーヂンで甲状腺ホルモンを補ってあげると、コレステロールも正常値に戻ります。
たばこですが、煙に含まれるチオシアネートという化学物質が
甲状腺の機能を悪化させるといわれています。

◆解説

 甲状腺機能低下症は、体の代謝機能を低下させ、寒気、むくみ、体重増加、徐脈、皮膚の乾燥、便秘、無気力、記憶力低下など、様々な症状を引き起こす。これらの症状は徐々に進行するため、甲状腺機能低下が見逃されるケースも多い。無気力が強いとうつ病、高齢者で記憶力低下が目立つと認知症と誤診されることもある。

 甲状腺機能低下症は、高コレステロール血症を来しやすいことが古くから知られている。これは、甲状腺ホルモンが、主としてリポ蛋白代謝の中心臓器である肝臓に作用し、脂質代謝を調節しているためと考えられている。甲状腺ホルモンの不足により、LDL受容体の活性が低下し、LDLコレステロールや総コレステロールが上昇するため、約90%の患者が高コレステロール血症を合併する。

 甲状腺機能低下症による二次性高コレステロール血症は、高コレステロール血症全体の12〜15%を占めるが、しばしば原疾患である甲状腺機能低下症に気づかれないまま、スタチンなどの脂質低下剤が漫然と投与されることがある。この場合は原疾患の治療、つまり甲状腺ホルモンの補充をしない限り、血清コレステロール値は正常化しない。しかも、スタチンは、甲状腺機能低下症に用いると横紋筋融解症が現れやすいとして、添付文書上慎重投与となっている。

 一方、喫煙も甲状腺機能に悪影響を与える。たばこの煙の成分の一つであるチオシアネートは、抗甲状腺作用を持っており、甲状腺でのヨードの取り込みと甲状腺ホルモンの合成を抑制する。また、甲状腺機能低下により様々な化学物質や薬剤の代謝機能が低下すると、チオシアネートの影響をより受けやすくなると考えられている。

 橋本病の女性患者387人を対象に行われた調査では、喫煙患者の76%が甲状腺機能低下症を合併していたのに対し、非喫煙患者では35%にとどまっていた。血清チオシアネート値は、甲状腺機能低下症を合併した喫煙患者で最も高かった。また、原発甲状腺機能低下症において、喫煙者は非喫煙者に比べ、コレステロール値などが高いという報告もある。