急性鼻副鼻腔炎

急性鼻副鼻腔炎の90%以上がウイルス性,「念のため」の抗菌薬はNG
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1203/1203075.html

IDSAが学会初の診療ガイドライン発表

米国感染症学会(IDSA)は
急性細菌性鼻副鼻腔炎(Acute Bacterial Rhinosinusitis;ABRS)
の診療ガイドラインを策定したと発表。
タイトルには「細菌性」との文言が含まれているが
同学会は急性鼻副鼻腔炎の90〜98%はウイルスにより引き起こされるとしており
こうした症例に「念のために」と抗菌薬を使用すべきでないというのが最大のポイント。

第一選択薬はアモキシシリン・クラブラン酸,成人には鼻洗浄も推奨

「鼻感染症がウイルス性か細菌性かを簡単に判断する検査はないが
多くの医師が“念のために”と抗菌薬を処方している」
ガイドライン作成委員長のAnthony W. Chow氏(ブリティッシュコロンビア大学名誉教授)。
しかし,IDSAによると急性鼻副鼻腔炎の90〜98%はウイルスが原因だという。
同氏は「ウイルス性の鼻感染症に対する抗菌薬の使用はベネフィットがないばかりか
薬剤の耐性獲得,本来さらされるべきでない有害事象リスクや
医療コストの増加につながる」と指摘している。


IDSAによる,今回のガイドラインのポイントは次の通り。

  • ABRS(小児,成人)のエンピリック治療における第一選択薬として

従来のアモキシシリン単剤よりもアモキシシリン・クラブラン酸を推奨する

  • 広く用いられているアジスロマイシン,クラリスロマイシン

トリメトプリム・スルファトキサゾール(ST)合剤は
薬剤耐性の拡大が見られるためABRSへの使用を推奨しない

  • 以下の項目があれば,ABRSとして速やかな治療を行うべき

10日以上症状の改善が見られない場合(既存のガイドラインでは7日間経過観察とされている)
38.9℃(102F)以上の発熱,鼻閉あるいは顔面痛が3〜4日間続くなどの重度の症状が見られた場合
新たな発熱,頭痛あるいは鼻閉の増悪など,ウイルス性上気道感染症後に
典型的な症状がいったん改善傾向にあったにもかかわらず,5〜6日続いている場合

  • 抗菌薬の使用期間を短縮する:

ほとんどのガイドラインでは細菌性感染症に対し
10〜14日間の抗菌薬使用を推奨している。
しかし,本ガイドラインでは薬剤耐性のリスクがなく
十分な治療を行える期間として5〜7日間を推奨する

  • ABRSに局所血管収縮薬や抗ヒスタミン薬を使用しない:

感染症が細菌性,ウイルス性のいずれであっても
これらの薬剤は症状を改善しないだけでなく,悪化させる可能性がある。
アレルギー歴のある鼻感染症患者の場合,経鼻ステロイドは症状を緩和する可能性がある

  • 生理食塩水による鼻洗浄は有効な可能性がある:

ガイドラインではスプレーやドロップ,液体などによる鼻洗浄法について触れている。
これらの方法によりある程度症状緩和が期待できる。
しかし,本ガイドラインでは小児に対する鼻洗浄法は治療で生じる不快感の理由から
必ずしも症状緩和が期待できないかもしれないとしている



また,ガイドライン共同著者の1人であるThomas M. File, Jr. 氏
(ノースイースオハイオ大学)は,鼻感染症の症状を緩和するために
痛みがあればアセトアミノフェンを服用,あるいは鼻洗浄を受けたり
水分をたくさん取ることを個人的に推奨するとのコメントを寄せている。

日本では2010年にガイドライン発行

日本では2010年に
「急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン」(編集:日本鼻科学会)が発行されている。
ガイドラインでは鼻処置を優先した上で,AMPCやセフェム系抗菌薬
レスピラトリーキノロン系抗菌薬などの投与を5日間から最長10日間まで推奨。
AMPCは日本では副鼻腔炎への適応記載はないが,同ガイドラインでは
適応菌種などの詳記により投与可能との見解が示されている。


ガイドラインの最大の違いの1つは
IDSAの治療アルゴリズムが1つであるのに対し、日本では小児,成人別に
臨床症状および鼻腔所見から成るスコアリングに基づく重症度分類を実施
軽症から重症まで計6つの治療アルゴリズムが設けられている点だ。
この背景には,もともと想定しているガイドラインのターゲットが
一般医と専門医とで異なることがあると見られる。


また,日本のガイドラインでは生理食塩水による鼻洗浄に関する記載は見当たらないが
鼻処置,自然口開大処置やネブライザー治療が有効との推奨がある。
局所血管収縮薬の使用は
一過性の鼻閉改善には有効との理由から「急性期3日に限り推奨」と記載。
しかし「副鼻腔に薬剤が到達しないため副鼻腔粘膜の腫脹には無効」とされている。