熱性けいれん

熱性痙攣のガイドラインが改訂されました
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/matsumoto/201506/542556.html


日本小児神経学会から「熱性けいれん診療ガイドライン2015」が発行されました。


われわれ薬剤師に特に関係するのは、
(1)ジアゼパム坐薬(商品名ダイアップ坐剤)、
(2)解熱薬、
(3)抗ヒスタミン薬に関する項目です。


まず、発熱時のジアゼパム坐薬についてです。


ガイドラインでは、
「熱性痙攣の既往がある小児において、発熱時のジアゼパム投与は必要か。適応基準は何か」
というCQを設け、その対応として、
「熱性痙攣の再発予防の有効性は高い」としています。
しかし、同時に
「副反応も存在し、ルーチンに使用する必要はない」
と付け加えています。


このようにジアゼパム坐薬の使用を制限する理由は、
熱性痙攣の再発率が39%と半数以下であり、
多くの患児ではジアゼパム坐薬を投与しなくても再発しないことによります
(最近の報告でも24.2〜40.4%)。


特に、熱性痙攣の大半を占める単純型熱性痙攣の患児では、
その後のてんかんの発症率が極めて少なく、
また痙攣を繰り返しても、学習障害や中枢神経に障害を起こす根拠はありません。
むしろ、ジアゼパム坐薬を使うと
副次反応(筋弛緩や興奮性など)が出現することを考慮して
ジアゼパム坐薬により単純型熱性痙攣を予防するメリットは小さい」
と結論付けられました。


では、どのような場合に使用するのでしょうか。
ガイドラインは、ジアゼパム坐薬の適応を、表の基準を満たす場合としています。


表1) ジアゼパム坐薬の適応基準
以下の適応基準1)または2)を満たす場合に使用する


1)遷延性発作(持続時間が15分以上)
2)次のi)〜vi)のうち2つ以上を満たした熱性痙攣が2回以上反復した場合
  i)焦点性発作(部分発作)または24時間以内に反復する
  ii)熱性痙攣出現以前より存在する神経学的異常、発達遅延
  iii)熱性痙攣またはてんかんの家族歴
  iv)12カ月未満
  v)発熱後1時間未満での発作
  vi)38℃未満での発作


ジアゼパム坐薬の適応基準は、複雑型熱性痙攣とかなり一致します。
中でも、持続時間が15分以上を超す遷延性発作は、
脳に障害を及ぼし生命を脅かす可能性がありますので、
熱性痙攣の持続時間が15分を超したら、ジアゼパム坐薬が推奨されます。


*「単純型熱性痙攣」と「複雑型熱性痙攣」
熱性痙攣のうち、以下の3項目のどれにも該当しないものを
「単純型熱性痙攣」としています。
一方、1つ以上を該当した場合は「複雑型熱性痙攣」と定義されます。
1)焦点発作痙攣(部分発作)の要素
2)15分以上持続する発作
3)一発熱機会内の、通常は24時間以内に複数回反復する発作


ガイドラインではジアゼパム坐薬の使用法についても言及しています。
「37.5℃を目安として、1回0.4〜0.5mg/kg(最大10mg)を挿肛し、
発熱が持続していれば8時間後に同量を追加する」とあり、これは従来と一緒です。


ただ、ジアゼパム坐薬を投与した場合、鎮静やふらつきが生じます。
激しい場合、転倒して頭を打つということもしばしば聞きます。
また、上位中枢の抑制が取れて、興奮性を示すこともあり、
ジアゼパム坐薬を使用した患児が薬局内で大暴れしたのを経験したこともあります。
ガイドラインでは、この様な既往がある場合は、
用量を下げることを考慮し、注意深く観察することを勧めています。
少量とはどれくらいかについては、「0.3mg/kgでも可」とありました。


患者さんから質問が多い、「ジアゼパム坐薬をいつまで続けるのか」については、
ガイドラインでは「最終発作から1〜2年、もしくは4〜5歳までの投与がよいと考えられる」
と書かれているものの、明確なエビデンスはないようです。
個人的には、この推奨を参考に、ほとんどのお子さんには
「小学校に上がる頃には終わると思いますよ」
と伝えられるのではないかと考えています。


次に解熱薬についてです。
ガイドラインでは、「解熱薬は熱性痙攣再発に影響するか」というCQを設け、
対応として、「発熱時の解熱剤使用が熱性痙攣発作を予防できるとするエビデンスはなく、
再発予防の使用は推奨されない」と言い切っています。


ここで私が注目したのが、ガイドラインに、
「解熱薬使用後の熱の再上昇による熱性痙攣再発のエビデンスはない」
という文言があることです。


経験上、解熱薬で一度熱が下がった後、
再び熱が上がると熱性痙攣が起こるような印象があります。患児の保護者からも
「解熱剤使用後の再発熱が発作を誘発するのでは…」と聞かれることがあります。
しかし、ガイドラインでは、解熱剤使用で発作が増えたというエビデンスはなく
根拠は乏しいとしており、個人的にはこの部分を興味深く読みました。


なお、解熱薬で使うアセトアミノフェン坐薬とジアゼパム坐薬を併用する場合には、
同時に挿入すると、両薬の基剤の違いが影響し、
ジアゼパムの直腸粘膜からの吸収が低下します。
そのため、ガイドラインでは、
ジアゼパム坐薬挿入から30分以上あけて解熱薬の坐薬を挿入するよう勧めています。


参考文献
日本小児神経学会「熱性けいれん診療ガイドライン2015」