コリン作動性クリーゼ


http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

ひどい肩凝りで1年以上前から診療所に通院している男性が
排尿障害を訴えて受診しました。
その3日後、 薬局に次のような質問をしました。


昨夜からひどい下痢をしています。
薬の副作用ではありませんか。

処方せん

* メチコバール錠500μg 3錠
 リンラキサー錠 6錠
 ノイロトロピン錠 3錠
 1日3回 毎食後服用 30日分
* トフラニール錠25mg 1錠
 1日1回 就寝前服用 30日分
* ウブレチド錠 2錠
 1日2回 朝夕食後服用 30日分


◆Anser

ウブレチドというお薬の副作用の可能性があります。
このお薬は自律神経の働きを促して尿の出を良くする作用がありますが
時に胃腸をコントロールする神経にも作用して悪影響を及ぼすことがあります。
ですから、このお薬を飲むのをやめて、すぐ先生に連絡してください。
私からも連絡をしておきます。
下痢のほかに、汗や涙がいつもより出るとか、吐き気があったりしませんか。
ウブレチドを飲むのをやめれば、症状は良くなると思います。

◆解説

前立腺肥大症による排尿障害にはα1遮断剤が用いられるが
その他の排尿障害ではが優先的に使われることが多い。
ウブレチドはコリン作動性神経から放出されるアセチルコリンの分解を
抑制する抗コリンエステラーゼ剤で、損傷を受けた副交感神経の働きを補い
排尿筋低活動の病態を改善する。


コリンエステラーゼ剤の副作用として最も注意しなければならないのが
コリン作動性クリーゼである。
これは、抗コリンエステラーゼ剤の投与によりコリン作動性神シナプス間隙で
コリンエステラーゼが必要以上に阻害され、過剰となったアセチルコリン
受容体を刺激するために起きる。
このアセチルコリン過剰状態がさらに亢進すると
コリン作動性神経支配器官全体が過度に興奮し
有機リン中毒に酷似した、意識障害、呼吸困難、痙攣などの状態に
至ることがある。この状態をコリン作動性クリーゼという。


初期症状として
お腹がゴロゴロして痛む、水のような下痢、吐き気、唾液が増える
痰が増える、汗・涙が出る、などがある。
重症化すると、息苦しい、周りが暗く見える、脈が遅くなるなどの症状が現れる。
これらの症状が現れた場合、投与を中止し、症状の改善が認められない場合には
必要に応じて硫酸アトロピン(商品名:アトクイックほか)の投与が行われる。
呼吸困難が認められる場合には
人工呼吸器や気管切開による気道確保など厳密な呼吸管理が必要となる。


ウブレチドによるコリン作動性クリーゼの発現状況を見ると
投与量が増えるほど発現の危険性が高くなり
大半が1日10mg以上の投与で発現している。
また、投与開始後、比較的短期間に発現しやすい。
その他の危険因子として、高齢、低体重、腎機能障害、肝機能障害などがある。