オキシトシン

愛情・信頼ホルモン「オキシトシン」の多彩な働き
スキンシップで促進、心身に安らぎ
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO74170330S4A710C1MZ4001/



親子間で愛情を深め仲間と信頼感を育むとき、
人の脳の中では「オキシトシン」と呼ぶホルモンがたくさん作られている。
以前は分からなかった多彩な機能がこのところ相次いで見つかり、
心身に安らぎをもたらす体内物質と注目を集める。
オキシトシンを作り出す習慣をうまく身に付ければ、
健康な日々を送れるようになるかもしれない。


「同じ釜の飯といえば、きずなを強める代表的な例でしょう。
一緒にご飯を食べているとオキシトシンの量が増えるんですよ」。
ホルモンとストレスの関係を調べている自治医科大学の尾仲達史教授は
オキシトシンがもたらす効果を分かりやすく解説する。


■ストレスを抑える
最近の研究から、親子や友人、同僚などが一緒に食事をする際、
良好な関係にあるほど体内でオキシトシンの量が増える傾向が分かった。
不安な時に出るストレスホルモン「コルチゾール」の発生を抑え、
信頼感を育んでいるという記憶を強める効果があるようだ。


約60年前に物質が判明したオキシトシン
当初、哺乳動物が出産時に子宮を収縮させる働きと
授乳時に乳を出すように促す働きしか分かっていなかった。


ところが1990年代半ば、ネズミにオキシトシンを注射する米国での実験で
つがいのきずなが強まる行動が確認されて以降、見方ががらりと変わった。
脳の中でどんな作用をしているのかを探る研究に火が付き、
人間でも同じ効果があるのではないかと考えられるようになった。


授乳時のオキシトシンは単に乳腺を収縮させて乳を出しやすくするだけでなく、
母と子の脳内で相互のつながりを記憶にとどめる役割を持つことが確かめられた。
スウェーデンで誕生した、肌に優しく触れる「タクティール・マッサージ」は、
オキシトシンを促して神経を静める効果がある。
慢性の痛みに悩む患者を抱える大学病院などで看護に役立てられている。


安心したからオキシトシンが作られるのか、
オキシトシンが作られて安心感が高まるのか、
原因と結果の関係がまだ十分に解明できていない面はある。
しかし「オキシトシンを促す行動や活動を意識すれば、
日々健やかに過ごせる可能性が高まるのではないか」と尾仲教授は指摘する。


オキシトシン 
脳の「視床下部」にある細胞が作り出すホルモン。
出産時に子宮を収縮させる作用がある。
1906年に発見されたが、物質の特定までには至らなかった。
50年代前半、米国の生化学者ヴィニョーが9個のアミノ酸で作られていることを突き止め、
人工合成にも成功。この業績によりノーベル化学賞を受賞した。
生殖と成長に深くかかわるホルモンとして注目され、
脳の中での機能を探る研究が活発になっている。
粉末を溶かしたスプレーは海外で市販され、
ストレスを軽減して安らぎを感じさせる作用などが確かめられている。


親密な関係であれば、やはり肌と肌の触れ合いが最も代表的な方法だ。
父親も子供とじかに触れ合えば互いにオキシトシンが作られ、
つながりを深められるという。逆に親に虐待を受けた子供は一般に、
オキシトシンを作る量が少ないことが知られている。


自閉症治療も研究
これに似ているのがペットとの触れ合いだ。
ペットの種類や面倒をどの程度まで見るかによって違いはあるが、
生き物と接する触覚はオキシトシンを作り出す刺激になる。


気分が高揚する程度のランニングを超えた激しい運動でオキシトシンが作られる。
強いストレスから心身を守るために出ている可能性もあり、
この場合のオキシトシンの役割は不明な点が多い。


バラやかんきつ系の香りをかいだ時にオキシトシンが作られるという研究や、
湯船につかった時に出るという報告もある。
因果関係や作用の仕組みなどに検証すべき点が多く、
科学的に広く認められていないが、何かつながりがありそうだとみられている。


一方、医学研究として、オキシトシン自閉症治療に生かす試みが出てきた。
東京大学や金沢大学などのグループが、点鼻スプレーによる投与で、
人とうまく意思疎通ができなかった人たちの症状を改善できないか研究している。


発作的に大暴れする男子生徒は投与後、自制できるようになった。
かんしゃくを起こしやすかった女子生徒の場合、情緒が安定し自傷行為が減った。
こうした事例を見てきた金沢大の東田陽博特任教授は
オキシトシンはさび付いた歯車を回るようにする潤滑油のようだ」と例える。