夜尿症


http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

8歳男児の母親


「先週の初めから、家でおしっこの量を測ったりしていたのですが
今日から治療を始めることになりました。
ですが、今日出ているお薬は飲み薬ですよね。
ネットで調べたら、鼻にスプレーする薬がよく効くと書いてありました。
どうして新しいスプレーのお薬ではなく、飲み薬なのでしょうか。」

処方箋

バップフォー錠10 1錠 
就寝前 14日分  
(2週間内服後、1週間休薬)



◆Anser

夜尿症の治療に、鼻に差すスプレーが使われることがあります。
ただ、夜尿症にはいくつかのタイプがあって、タイプごとにお薬は使い分けられています。
鼻のスプレーは、夜に尿がたくさん作られることで起きる夜尿症に特に効果がありますが
お子様に出ている飲み薬のバップフォーは、膀胱が原因で起きる夜尿症に良く効きます。
おそらくお子様の場合には、これまでの検査で、膀胱の方に原因があるのではないかと
先生がお考えになって、バップフォーが処方されたのだと思います。
こちらのお薬は、飲み始めてしばらくすると、副作用で口や目が乾いたり
下痢が起きることがありますが、それをできるだけ防ぐために
2週間飲んで1週間休むという飲み方をします。

◆解説

夜尿症は
(1) 夜間尿量の多い「多尿型」
(2) 膀胱容量の少ない「膀胱型」
(3) 両者ともに認められる「混合型」――に大別される。
多尿型はさらに、抗利尿ホルモンの分泌不足で尿の濃縮が行われない「低浸透圧型」と
濃縮はされているが尿量が多い「正常浸透圧型」に細分類できる。
薬物療法では、この病型に合わせて薬剤が選択される。


主に多尿型(低浸透圧型)で使用されるのが、抗利尿ホルモン剤のデスモプレシンである。
同剤は従来、中枢性尿崩症の治療に使用されていたが
2003年に夜尿症に適応を持つ点鼻スプレー「デスモプレシン・スプレー」が発売された。
就寝前に点鼻することで抗利尿ホルモンを補い、就寝中の尿量を減少させる。


一方、主に膀胱型の夜尿症に使用されるのが
塩酸プロピベリン(商品名:バップフォー)などの抗コリン剤である。
副交感神経を抑制して膀胱平滑筋を弛緩させ、膀胱容量を増大させる。
ただし、抗コリン作用による口渇や下痢などの副作用が起こりやすいため
これらの副作用や薬物依存を防ぐ目的で
2週間服薬し1週間休薬するといった間歇投与が行われる場合がある。


また従来から、適応外ではあるが
塩酸イミプラミン(商品名:トフラニールほか)などの三環系抗うつ剤も多く使用されている。
作用機序の詳細は不明であるが、抗利尿ホルモンの分泌促進作用と抗コリン作用があり
病型を問わず、軽症例では有効とされる。


このほか、夜尿症では生活指導の果たす役割が大きい。
膀胱型では、昼間在宅時になるべく排尿をぎりぎりまで我慢させ
膀胱容量を大きくする訓練を行う。
また一般に、冷えは夜尿症を悪化させるので
就寝前にゆっくりと入浴させることも有効である。


なお、夜間に子供を強制的に起こして排尿させることは
夜間排尿の習慣を付け多尿を助長することにつながるため、避けるべきである。
加えて、夜尿症は排尿機能の発達遅延が主な原因であり
しかって治そうとしても無意味であることから
保護者には「起こさず、あせらず、しからず」を指導するとよいとされる。