アトランタで会った爺

アトランタの中級ホテルのレストランで
ひとりで飯を食っていた日本人の爺さんに僕は声を掛けた。
爺さんは博多・天神にある貿易会社KのS社長だった。


爺さん(以下、社長)はブラジルとコロンビアを拠点に
主に宝石と花を輸入していると言う。


僕はかつて営業マンだったので、相手を気持ち良く喋らせる術を心得ている。
気持ち良く喋らせてあげれば、社長は僕にビールを奢ってくれるはずだ。


社長は1960年代後半に銀行から500万円借りて
当時60万円の航空券でブラジルに飛び
ダイアモンドとアクアマリンという宝石を400万円で仕入れて
日本で1100万円で売りさばき、今の会社の礎を築いたと言う。


「サラリーマンをするなら、会社は学校だと思え。
自分が将来会社を経営するという前提で仕事を学べ。
勉強させてもらって、金をもらえるなら感謝すべき。」
「10年以上同じ仕事をやっても、もう学ぶものはない。」


社長の話は3時間にも及び
僕はバドワイザーを2リットル以上飲んでしまったが
社長はビールを奢ってくれなかった。


美人秘書も伴わず、ひとりでこんな安ホテルに泊まっている
ケチな社長が僕に奢ってくれるわけはないのだ。