亜鉛

味がしない、食欲がない… それは亜鉛不足かも
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO23396680T11C17A1000000?channel=DF130120166093



亜鉛不足に注目するマイシティクリニック院長の平澤精一氏と、
全国でも珍しい味覚外来を担当する兵庫医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科講師の任智美氏が講演を行った。
その中から、亜鉛不足と味覚障害についてキーポイントを紹介しよう。


味覚障害からフレイル、そして要介護へと続く悪循環
亜鉛はミネラルの一種で、人体にとって必須の栄養素だ。
体内にある300種類以上の酵素の働きを助け、
新陳代謝の活性化やたんぱく合成に関わっている。
そのため亜鉛が不足すると、さまざまな全身症状が現れる。


亜鉛不足の症状には、
味覚障害、臭覚障害などの知覚障害、
湿疹、皮膚炎、脱毛といった皮膚症状、
貧血、食欲不振、骨粗しょう症、免疫力低下、慢性肝疾患、糖代謝異常などがある。
さらに、情緒不安定、記憶力低下、うつ傾向といった精神症状、
不妊症や男性更年期障害といった性機能障害も亜鉛不足で起こってくる(表1)。


中でも真っ先に自覚しやすいのが、味覚障害だ。
亜鉛が不足することによって舌にある味細胞の細胞分裂が止まり、
新しい細胞ができなくなると、味を感じられなくなる。


亜鉛は男性ホルモンのテストステロン生成にも関わっています。
テストステロンには、筋肉を作ったり骨を強くしたりする作用があるので、
テストステロンが不足すると、さらに筋力不足や骨粗しょう症が起こりやすくなります」
と平澤氏は言う。


亜鉛は脳の認知機能にも関与します。
うつ傾向で意欲が低下して外出が減ると、身体機能は衰えていきます。
亜鉛欠乏症では、肌荒れや脱毛で老けて見えやすくなるので、
それも外出する意欲を低下させるでしょう。
こういった悪循環は、フレイルから要介護へと一直線につながっていきます。
若々しさと健康を保つためには、亜鉛というキーワードをぜひ認識してください」
(平澤氏)。


■薬の影響でも、味覚障害が起こる
味覚障害には、普段から飲んでいる薬が影響することもある。
そのメカニズムは薬の種類によってさまざまだが、中でも注目されるのは、
亜鉛キレート作用」の影響だ。
亜鉛はキレート結合すると体外に排出されやすくなるため、
亜鉛をいくらとっても、どんどん排出されてしまう。
結果的に、亜鉛不足による味覚障害を起こすというわけだ。


亜鉛キレート作用を起こす薬は慢性疾患に使用するものが多く、何百種類もある。
高齢者は、さまざまな慢性疾患を抱えていて、服用する薬の種類が多くなりがちなため、
薬剤による味覚障害も多いと考えられる。


「高齢者の味覚障害が、薬剤による亜鉛不足が原因と分かっても、
病気の治療に必要な薬はやめられません。
そうなると外から亜鉛を補うしかないのですが、
多量の亜鉛製剤を飲んでも亜鉛がどんどん排出されていくので、
改善するまでにかなり時間がかかります」と任氏。


だが、亜鉛不足による味覚障害なら、
根気よく亜鉛を補充していけば、治ることも多い。


任氏によると、
亜鉛補充療法に漢方薬を併用すると、
亜鉛欠乏性の味覚障害と特発性の味覚障害[注2]は7割以上が治ります。
ただ、効果が表れるまでに3カ月から半年はかかりますので、
あきらめずにじっくり治療をしてください」とのことだ。


■自己判断で大量摂取すると過剰症の恐れも
ただ、自己判断で亜鉛不足と考え、亜鉛サプリメントをむやみに飲むのは禁物だ。
亜鉛には過剰症があって、とり過ぎると
貧血、免疫力の低下、性機能低下、味覚や嗅覚の低下などが起こる。
これらの症状は亜鉛欠乏症と似ているので、
過剰になっていても分からずにサプリメントを飲み続け、
ますます悪化する恐れがあるという。


ひょっとして亜鉛不足かもと思ったら、
まずは医療機関を受診して、血液検査で亜鉛の値を測ってもらおう。
亜鉛血症と診断されたら、保険診療での治療が可能だ。
亜鉛を豊富に含む食べ物から亜鉛を摂取することももちろん重要だが、
亜鉛欠乏症と診断されるほどの亜鉛不足になったら、
医師の指導の下、適切な治療を受けて、以前の味覚と食欲を取り戻そう。

男性の守り神「亜鉛」 正しくとれてる?

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亜鉛が不足すると男性機能が低下する
亜鉛は、男性では前立腺や性腺に高濃度に含まれていて、
性ホルモンの合成や精子の生成などに深く関係しています。
亜鉛が欠乏すると性的な機能が低下する可能性があり、
アメリカでは亜鉛は“セックスミネラル”とも呼ばれています」
女子栄養大学栄養生理学研究室教授の上西一弘氏)


性欲低下や勃起障害の原因はいろいろあるが、
1つには、男性ホルモン(テストステロン)の減少がある。
亜鉛とこれらの関係はよくわかっていないが、毛髪の亜鉛の濃度が高い男性は、
血中のテストステロン値が高いという報告がある
つまり、テストステロンの維持には亜鉛が有効と考えられるのだ。


■頭皮を健康に保つ亜鉛
亜鉛細胞分裂を正常に行って正しく細胞を作ったり、
たんぱく質を合成したりすることに関わっています。
そのため、体の成長に欠かせません」(上西氏)。


日本では見られないが、発展途上国では、
亜鉛不足による子どもの低身長・低体重、第2次性徴の遅れなどが見られるという。


亜鉛は大人にとっても重要だ。
亜鉛はとくに、細胞の新陳代謝が盛んな組織・臓器に必要とされる。
そのうちの一つが皮膚だ。
亜鉛が欠乏すると皮膚炎が起こります。入院中の高齢者などで床ずれがある人は、
亜鉛が不足すると症状が悪化します」(上西氏)。


亜鉛不足は抜け毛の原因になることもある。
それは、亜鉛が皮膚の新陳代謝と深く関わっているためだ。
動物実験では明らかですが、ネズミを亜鉛欠乏にさせると毛が抜けてきます。
これは、皮膚の状態が悪くなるためだと考えられます」(上西氏)


ベジタリアンや加工食品ばかりの人は要注意
亜鉛は魚介類のカキに豊富に含まれていることが知られているが、
貝や肉などの動物性食品に多く含まれているのが特徴だ。


亜鉛は通常の食事で欠乏することはまずありませんが、
植物性食品に偏った食生活を送っている人では不足することがあります。
また、味覚障害若い女性に多いという報告があります。
これは、肉を食べないような極端なダイエットが原因の一つだと考えられます」(上西氏)。


亜鉛は吸収率が低く、腸管からの吸収率は約30%ともいわれている。
「穀類や豆類に多いフィチン酸や青菜に多いシュウ酸は、
亜鉛と結合することによって亜鉛の吸収を妨げるため、
ベジタリアンの人は、とくに亜鉛が不足しやすく注意が必要です」(上西氏)


では、肉をしっかり食べていれば大丈夫かというと、そうともいえない。
「加工食品に含まれている添加物のリン酸塩やポリリン酸なども亜鉛の吸収を妨げます。
つまり、加工食品ばかりの食生活を送っている人も亜鉛が不足しやすくなります」(上西氏)