褥瘡の病期に応じた外用剤の使い分け
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変
◆Question
85歳の女性 褥瘡
脳梗塞後遺症で寝たきり状態
入院中に治療していただいたので、今はだいぶきれいなのですが
この塗り薬は入院中に使っていたものとは違います。
前の薬はとてもよく効いたように思うのですが、この薬でも大丈夫なのでしょうか。
処方せん
アクトシン軟膏（30g） 4本
1日2回 患部に塗布
Q
褥瘡は、創面の色調に基づいて、下記の4段階の病期に分類される。
アクトシン軟膏（一般名：ブクラデシンナトリウム）は、どの病期に使用される薬剤か。
黒色期
黄色期
赤色期
白色期
◆服薬指導
床ずれの塗り薬は、傷の状態に合わせて使い分けます。
入院中の治療で状態がよくなったので
病院で使っていたものとは違うタイプのお薬を使うことになったのだと思います。
具体的に言いますと、治療を始めたばかりの段階では、細菌を殺したり
死んでしまった細胞を取り除くためのお薬を使って、傷の内側をきれいにします。
傷がきれいになったら、今度は、健康な細胞や皮膚を再生させて
傷口をふさぐためのお薬を使います。
アクトシン軟膏は
治療が進んだ段階で使われるもので、傷口をふさぐ作用のあるお薬です。
◆解説
褥瘡は、長期間の臥床などにより仙骨部や踵骨部などに持続的な圧力がかかり、その部分の皮膚や深部組織が虚血状態になることで引き起こされる皮膚病変である。初期には、皮膚が発赤したり、水疱ができる程度だが、悪化すると表皮が損傷してびらんや潰瘍などができ、創面の細菌感染や組織壊死が起きる。
褥瘡の分類方法は数多く提唱されているが、わが国では一般に、損傷の深達度による分類と、創面の色調による分類が併用されている。
深達度による分類は、褥瘡の重症度を表す。具体的には
(1) I度：発赤、紅斑（皮膚を指などで圧迫しても白くならない内出血の状態）
(2) II度：真皮に及ぶ損傷
(3) III度：皮下脂肪層に及ぶ損傷
(4) IV度：筋肉、腱、骨までに及ぶ損傷
の4段階に分類される。また、このうち、I度とII度の褥瘡は「浅い褥瘡」、III度とIV度の褥瘡は「深い褥瘡」と呼ばれている。
一方、Qの選択肢としても挙げた「黒色期」「黄色期」「赤色期」「白色期」という創面の色調による分類は、III度とIV度の深い褥瘡を治療経過で区別したもので、治療方法と密接に関連している。重症の褥瘡では、表面の壊死組織が乾燥し、黒色化してかさぶたのようになるが、通常、その下部では壊死や細菌感染が起きている（黒色期）。これを放置すると、さらに患部の壊死が進み、敗血症などに至る危険があるため、黒色壊死組織の除去（デブリードマン）が必要となる。除去すると、その下には黄土色の深部壊死組織がある（黄色期）。この壊死組織が完全に除去され、鮮紅色の肉芽が表面に現れた状態が赤色期である。肉芽形成がさらに進み、それが皮膚表面レベルまで達すると、続いて創縁から表皮細胞が遊走し、周囲の皮膚よりも色の白い新生上皮が形成される（白色期）。この上皮によって創が閉鎖していくのである。
深い褥瘡の治療に使用される主な外用剤をまとめたのが、下表である。黒色期から黄色期には、抗菌作用のある薬剤や壊死組織を除去する作用を持つ薬剤が、赤色期から白色期には肉芽や上皮の形成促進作用を持つ薬剤が主に使用される。また基剤の違いで吸湿性が異なるため、創面の滲出液の量に応じて使い分けられる。これら薬剤を混合して使うことも多い。
Mさんの場合、赤色期から白色期に使用されるアクトシン軟膏（一般名：ブクラデシンナトリウム）が処方されている。同剤は、毛細血管を拡張したり、血管内皮細胞や表皮細胞の増殖を促す作用があり、肉芽形成とともに上皮化を促進する作用があるとされる。基剤は、マクロゴールからなる水溶性基剤で、吸湿性が高く、滲出液が多いタイプの褥瘡に適している。来局した介護者の話と考え合わせると、Mさんの褥瘡は、入院中の治療で改善し、現在は赤色期から白色期の状態にあるものと推測される。
〔深い褥瘡の治療に使用される主な外用剤（カッコ内は一般名）〕
●黒色期から黄色期
【滲出液が多い場合】
カデックスパウダー・軟膏（カデキソマー・ヨウ素）
ユーパスタ軟膏（精製白糖・ポビドンヨード）
【滲出液が少ない場合】
ゲーベンクリーム（スルファジアジン銀）
バリダーゼ局所用（ストレプトキナーゼ・ストレプトドルナーゼ）
●赤色期から白色期
【滲出液が多い場合】
アクトシン軟膏（ブクラデシンナトリウム）
【滲出液が少ない場合】
オルセノン軟膏（トレチノイントコフェリル）
プロスタンディン軟膏（アルプロスタジルアルファデクス）
フィブラストスプレー（トラフェルミン）
答え
赤色期
白色期
