IPO 玉石混交

IPO 玉石混交の「4K」
今年は「駆け込み」「小粒」「高齢」「下方修正」 活況市場にも死角
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO81230510T21C14A2EA1000/



株式市場が、戦後7回目といわれる新規株式公開(IPO)ブームに沸いている。
16日に一挙5社、12月は28社、年間で77社が上場し、
通信バブルの2000〜01年、
ヒルズ族を生んだネットバブルの05〜06年以来の勢いだ。
投資家が供給するリスクマネーが企業を育て、産業の新陳代謝を促す。
IPOの機能回復は日本の成長戦略に直結する。
活況の年を4つの「K」で振り返ると……。


「最初から、こんなに株価が高いのは心配」。
22日に東証マザーズに上場した電力サービスのイーレックス
渡辺博社長はこう話し、口元を引き締めた。
初日の株価は事前に決まっていた公開価格を上回り、
ストップ高水準(制限値幅の上限)まで上げたが、
「すぐに下げる展開が一番怖い」のだという。


警戒するのは、高層エレベーターのように激しい値動きをする事例が多いからだ。
今月上場したGMO TECHは、初値が公開価格の2.4倍の1万3640円で、
その日のうちに1万5900円まで上げたが、22日の終値は7000円を下回った。
IPO投資の経験が豊富な都内の男性(45)は
「とにかく初日が勝負。その後は買いが一気に細る」と解説する。


初値が公開価格を大きく上回ったら、さっさと売却して利益確定する投資家は多い。
次から次へと新規銘柄が出てくる時は、投資家の意識も次、その次へと向きがちで、
資金の回転はさらに速まる。「駆け込み」、これが1つめの「K」だ。


企業も証券会社も、
株高で投資マネーが集まりやすいうちに上場したいと考えるから、案件が集中する。
新規銘柄に詳しい、いちよし証券の宇田川克己投資情報部課長は
「IPO説明会の連続で、どの企業がどんな特徴を持ち
どんな課題があるのかという情報を整理できなかった」と話す。


上場をサポートする証券会社や監査法人も手が回らない。
「経験が少ない若手の腕試しとして、
規模が小さい企業の主幹事業務を任せるケースもある」(IPO支援会社)という。


2つめの「K」は、「小粒」。
77社の上場時の資金調達額は合計3900億円と8年ぶりの多さだが、
1社あたり平均では50億円と昨年の69億円より小さい。
売上高が10億円に満たない企業も昨年の6社から12社に増えた。
ある証券会社の引受担当者は「主幹事獲得の競争が激しく、
上場を希望する企業を青田買いせざるを得ない」と打ち明ける。


東京証券取引所上場推進部の永田秀俊課長も
「米国ならベンチャーキャピタルが投資するレベルの企業が増えている」と認める。
リクルートホールディングスなど大型案件の印象が強いが、
数字でみると小型化が進んだことがわかる。


起業まもない小規模の企業が多い一方で、
1944年設立の今村証券(17日上場)、
49年設立でホームセンター運営の綿半ホールディングス(24日)など、
大がつくベテラン勢も目立つ。3つめは「高齢」だ。


もちろん社歴と業績の良しあしは関係ない。
ただ、若い企業に比べて古参企業は経営の安定性は抜群だが、
投資家の成長期待が膨らみにくい面もある。
設立から上場まで30年以上かかったのは17社(昨年10社)に増え、
全体の平均年齢も昨年の約17歳から今年は20歳強へと上がった。


そして最後は「下方修正」。
ソニー東芝日立製作所の中小型液晶事業を再編して発足したジャパンディスプレイは、
上場わずか1カ月後の4月下旬に2013年度の業績予想を引き下げた。
さらに10月には14年度の予想を下方修正した。
投資家の失望を買い、時価総額は2300億円と初値の半分に沈んでいる。
期待と現実のギャップが大きいほど株価の反応も極端になる。


来年も増勢か
IPOは15年も増勢が続きそうで、「100社前後」との見方も出ている。
社数が増えれば増えるほど玉石混交、4Kの傾向は一段と強まる。


例年、年末の最終取引となる大納会に有名人を招いていた東証は、
今年は中高生を呼んで鐘を鳴らしてもらうという。
知名度より将来性、大物よりルーキー。
期待に応える新顔は来年どれぐらい出てくるだろうか。