ダイアモックス

不眠を訴える睡眠時無呼吸症候群患者
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変


◆Question

近くの診療所で睡眠時無呼吸症候群と診断され、
2週間前から治療を開始した50歳の男性Tさんが、診察の帰り道に薬局を訪れました。
Tさんは処方せんを出しながら、次のように質問しました。


前回と同じ薬だと思うのですが、
このお薬を飲むようになってから、トイレが近くなったような気がします。
もしかしたら、薬と関係があるのでしょうか。
もし、そうであれば、別の薬に変えてもらいたいのですが……。
それと、長く眠った割に、熟睡したという感じがありません。
以前別の医院でもらった睡眠薬が自宅にあるのですが
ぐっすり眠れるように、それを飲んでもいいでしょうか。


処方せん

ダイアモックス錠 2錠
 分1 寝る前 14日分

◆服薬指導

「トイレが近くなったような気がする」とのことですが、
確かにこの「ダイアモックス」には、尿の出を良くする作用があるため、
お薬によるものかもしれません。
ただ現在、睡眠時無呼吸症候群にはっきりとした効果が確認されているお薬は、
このダイアモックスだけですので、
できればがんばってお飲みいただいた方がよろしいかと思います。
それから、睡眠薬についてですが、一般に睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、
睡眠薬は避けた方が良いとされています。
睡眠薬には筋肉の緊張を緩める働きがあるので、
睡眠中に舌の付け根の部分が緩んでのどの奥に下がってしまい、
さらに呼吸がしにくくなる恐れがあるからです。


◆炭酸脱水酵素阻害作用等により、アシドーシスが起こり、
間接的に呼吸中枢が刺激されると考えられている。

◆解説

 睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に頻回に無呼吸が起こる病態のことで、一晩7時間の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上認められる場合、または睡眠1時間当たりの無呼吸の回数が5回以上の場合に、同症候群と診断される。症状としては、激しいいびきと睡眠・覚醒障害が認められ、熟眠障害から日中に過度の眠気を来す。また、無呼吸に伴って生じる低酸素血症や高炭酸ガス血症などのために、高血圧や脳血管障害、虚血性心疾患などを合併しやすいことも知られている。

 無呼吸が生じる主たる原因は、睡眠中の舌根沈下により、上気道が閉塞されるためである。上気道閉塞の要因としては、肥満に伴う上気道軟部組織への脂肪沈着、扁桃肥大、巨舌症、鼻中隔彎曲症、アデノイド(咽頭扁桃肥大)、小顎症など形態的異常によるものと、上気道筋の活動度の低下など機能的異常によるものとがある。

 治療は、手術による外科的治療と保存的治療に大別される。外科的治療は、アデノイドや扁桃肥大などによる上気道閉塞に適用される。また、保存的療法には、経鼻的持続陽圧呼吸(nasal CPAP)療法、歯科的治療、薬物療法の三つがあり、重症度や合併症の有無に応じて選択される。

 薬物療法は、軽症〜中等度の症例に適用される。現在、睡眠時無呼吸症候群に適応がある薬剤は、アセタゾラミド(商品名:ダイアモックス)のみである。同剤は、利尿剤や抗痙攣剤としても使用されるが、一方で強力な炭酸脱水酵素阻害作用により、腎での重炭酸イオンの排泄を促進して代謝性のアシドーシス(血液が酸性化した状態)を起こす。また、赤血球からの二酸化炭素の遊離を抑制して呼吸性アシドーシスを起こす。これらによる血液pHの低下が呼吸中枢を刺激して、無呼吸を防ぐものと考えられている。

 適応外で使用されるものに、酢酸メドロキシプロゲステロン(商品名:ヒスロンほか)や三環系抗うつ剤がある。

 さて、Tさんはアセタゾラミドを服用したことで、「トイレが近くなったような気がする」と話している。これは同剤の利尿作用によるものと想像がつく。Tさんには保険が利く薬剤は同剤のみであることを説明し、それでも変更を希望する場合には、処方医に照会するという手順をとるべきだろう。

 このほか、Tさんは自宅にある睡眠剤を服用してよいかどうかを尋ねている。だが、睡眠時無呼吸症候群の患者には原則、睡眠剤は使用すべきではないとされている。睡眠剤の筋弛緩作用で舌根が下がり、呼吸抑制が悪化する恐れがあるためで、実際、クアゼパム(商品名:ドラール)については、同症候群患者への投与が禁忌になっている。ただし、ゾピクロン(商品名:アモバンほか)や酒石酸ゾルピデム(商品名:マイスリー)は、筋弛緩作用が少なく、同症候群を悪化させる恐れはほとんどないと言われている。