タバコに放射性物質

タバコに放射性物質 Brianna Rego(在・スタンフォード大学大学院)

http://www.nikkei-science.com/page/magazine/1104/201104_066.html


放射性同位体ポロニウム210は
多くの人が考えているよりもずっと身近なところにまで広がっている。
世界で年間に6兆本近いタバコが吸われているが
その1本1本が少量のポロニウム210を肺に送り込んでいるのだ。


植物のタバコには低濃度のポロニウム210が蓄積する。
その大部分は肥料に含まれている天然の放射性元素から生じたものだ。
喫煙者が吸入したポロニウムは肺の“ホットスポット”に定着し
がんを引き起こす原因となりうる。
ポロニウムはタバコの煙に含まれる発がん物質として主要なものではないだろうが
それでも米国だけで年間に数千人がこのせいで死亡していると考えられる。


そしてポロニウムが他の発がん物質と異なるのは
これらの死が単純な対策によって避けられたはずだという点だ。
タバコ産業はタバコにポロニウムが含まれていることを50年近く前から知っていた。
私はタバコ産業の内部文書を調べ,メーカーがタバコの煙に含まれるポロニウム
濃度を劇的に減らすプロセスを考案までしていたことを発見した。
しかし巨大タバコ企業はあえて何もせず,その研究を秘密にすることに決めた。
結果として,タバコは現在もまだ半世紀前と同量のポロニウムを含んでいる。


しかし,状況は変わろうとしている。
2009年6月,オバマ大統領は「家族の喫煙予防とタバコ規制法」に署名した。
この法律によって,タバコは初めて米食品医薬品局(FDA)の管轄下に置かれ
FDAはタバコの特定の成分を規制できるようになった。
タバコの煙からポロニウムを除去するようタバコ産業に義務づけるのが
タバコの害を少しでも和らげる最も明快な方法だといえるだろう。


原題名
Radioactive Smoke(SCIENTIFIC AMERICAN January 2011)