セレキノン


http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

患者が次のような質問をしました。


最近、ひどい下痢が続いていたので、内科に行ってきました。
前にも同じようなことがあって、今日とは違うクリニックに行ったのですが
その時に、もらった下痢止めを飲んだら、逆にひどい便秘になりました。
今日の先生に、その時のことを話したら
「それは過敏性腸症候群かもしれませんね」と言われたのですが
今回の薬は、大丈夫でしょうか。
どのような薬が出ているのか、詳しく教えてください。

フェロベリン 6錠
ラックビー微粒 3g
セレキノン錠 3錠
 分3 毎食後 7日分


◆Anser

ラックビーは、乳酸菌の一種のビフィズス菌を含んだお薬です。
生きたまま腸に届き、乳酸菌が腸を整えてくれます。


フェロベリン(ベルベリン、ゲンノショウコエキス) は下痢止めなのですが
その成分は、植物から抽出されたもので漢方薬としても使われています。
比較的穏やかな下痢を止める作用と、腸の中を殺菌する作用がありますので
下痢の症状を穏やかに治すことができると考えられます。


セレキノンは過敏性腸症候群のお薬です。
過敏性腸症候群は、腸の神経が敏感で、神経が興奮して腸の運動が活発になりすぎると
下痢になり、逆に興奮がおさまると、運動が弱くなって便秘になるという病気です。
セレキノンは、この敏感な腸の神経のバランスを保つ作用があります。
神経が興奮しすぎたら抑え、運動が足りない場合には刺激するわけです。
多くの過敏性腸症候群の患者さんが飲んでいらっしゃるお薬です。


◆解説

  • コリン作用と抗コリン作用の両面を併せ持つ。 

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は
器質的疾患がないにもかかわらず
腹痛あるいは腹部不快感と便通異常を慢性的に訴える疾患である。
かつては過敏性大腸炎、過敏性大腸症候群と呼ばれ
大腸の機能異常に基づく疾患と考えられていたが
その後、本症の研究が進んだことで疾患概念が変化し
大腸だけでなく上部消化管および小腸を含めた
消化管全体の機能異常に基づく疾患として、広くとらえられるようになった。


過敏性腸症候群でみられる消化器症状は、次の3種類に分類される。
すなわち
(1)上部消化管運動異常に基づく症状:
  嚥下困難、胸やけ、食道性胸痛、悪心、しゃっくり、腹部膨満感、腹部痛
(2)小腸運動異常に基づく症状:腸周囲の腹痛、腹部膨満感、腹鳴
(3)大腸運動異常に基づく症状:
 下痢、便秘、便中粘液、不完全排便感、下腹部痛、腹部膨満感、頻回な放屁――
 である。
各種の検査によって器質的疾患が認められないにもかかわらず
慢性的にこれらの症状が認められた場合には
飲食物や薬剤が原因でないことを確認した上で、過敏性腸症候群と診断される。


下痢型の過敏性腸症候群の治療では
臭化ブチルスコポラミン(商品名:ブスコパンほか)や
臭化メペンゾラート(商品名:トランコロンほか)などの抗コリン剤
止痢剤の塩酸ロペラミド(商品名:ロぺミンほか)などが使用されることが多い。
しかし過敏性腸症候群の場合、これら薬剤を長期間使用することで
逆に便秘になる例が存在するため、慎重に使用量や期間を設定する必要がある。


一方、今回処方されたマレイン酸トリメブチン(商品名:セレキノンほか)は
下痢型に限らず、便秘型や下痢と便秘を繰り返す交替型にも使われる消化管運動調整剤である。
作用機序は未解明な部分も多いが、同剤は末梢のオピオイド受容体を介して
消化管運動を亢進するアセチルコリンの分泌を調整すると考えられている。


消化管運動と関連する末梢のオピオイド受容体には
副交感神経終末に存在するκ受容体と、交感神経終末に存在するμ受容体がある。
トリメブチンがκ受容体に作用すると副交感神経が抑制され、
アセチルコリン分泌量が減少し、消化管運動が抑制される。
一方、同剤がμ受容体に作用すると、交感神経が抑制され
その影響で副交感神経が亢進してアセチルコリン分泌量が増加し
消化管運動は亢進する。このようにトリメブチンは
消化管運動の状態に合わせて亢進と抑制のどちらにも作用し
消化管運動のバランスを調節するのである。もっとも臨床的には
便秘型に対しては効果が若干劣るという報告が多く
主に下痢型の過敏性腸症候群に使用されている。


このほか、過敏性腸症候群の治療には
消化管からは吸収されず腸管内で水分を吸収してゲル化する
ポリカルボフィルカルシウム(商品名:コロネルポリフル)も広く使用される。
これら過敏性腸症候群治療薬に加え
作用が比較的緩和な下剤や止痢剤、乳酸菌製剤が併用されることも多い。