「奇跡!」

斎藤隆のブログより丸写し


マウンドからベンチに戻って来たときは
本当にどん底の気分…
よりによって、この首位攻防戦に
一番頑張らなきゃいけないところで
なんで打たれてしまったのか
もう、歯がゆいやら情けないやら悔しいやら。
ずっと、顔を上げれませんでした…


すると…
カーン!
1本目のホームラン。
あぁ…、だから俺がちゃんと抑えときゃなぁ…
そしたら、この場面で、このホームランで同点にできたんじゃないか…


カ――ン!
2本目のホームラン。
あぁ…、これは罰だ…何かの罰に違いない…


カ―――ン!
3本目。
え…?


カ――――ンッ!
まさか………
4本連続のホームランで同点。


有り得ますか?こんなこと、有り得ますか?
そして10回にはまた1点を勝ち越されたのに
その裏、ノーマの2ランホームランで逆転サヨナラ勝ち!!!
信じられない。
実際、何が起こっているのか分かりませんでした。


9回裏、3本目のホームランのあたりから
コーチやチームメイトが来て
「気にするな。1年間、ずっと抑えるなんて誰にも無理なことなんだから」
「お前がこれまで頑張ってきたから、チームがここまで来れたんだろう」
「サミーにいつも助けてもらってるから、今日は皆でお前を助けるからな」
口々に、次々に、僕に声をかけてくれるんです。
最後は皆が耳元で叫ぶもんだから、何が何だか
言ってることがほとんど分かんないんですけど
とにかく僕を励ましてくれる。
……もう、感極まって、涙が溢れて、それを見られたくなくて
ベンチにいれなくなって、思わずロッカーに戻ってしまいました。


するとクラブハウスでも、ペニーが
「サミー、俺なんか初回に4点取られてるんだぞ。
お前はたったの3点じゃないか。たいしたことないだろ」


チームメイトだけじゃなく、裏方さんやボールボーイ君まで
「今、こうして地区優勝を争えてるのはサミーのおかげだよ」
と勇気づけてくれたり…


…そんなこと皆から言われたら、泣き止めないじゃないですか…
(さらにもどかしいのは、「サミーは悔しくて泣いてるんだ」という誤解を
「違う。皆の励ましに感激して泣いてるんだ」と上手く訂正できないこと。)


極めつけは、普段はほとんど話したこともないクールなロゥ
バンっ!と肩を叩いてくれたことです。
今まではセーブしても、「それがお前の仕事だろ」という感じで
特に何もリアクションしなかったロゥなのに…


ベンチに戻ったとき、落ち込みながら
僕はまたアメリカに来てからのことを思い出していました。
当初は、マイナーで自分の野球人生が終わることになるかも知れない
それでも挑戦したい、これが最後の挑戦だ、メジャーのマウンドで1度でも
投げることができたら本望だ、精一杯やってダメなときはしょうがない…
そんな覚悟でスタートしました。
それから、幸運にもドジャーズの一員になることができて以来、いつもいつも
「今日、たとえここで自分の野球人生が終わったとしても、悔いがないように
1日1日をしっかり積み重ねていこう」
そんな気持ちで過ごしてきたのです。


だけど、正直、今日だけは、
「あぁ…やっぱり俺で負けるのか…
ここで抑えられないのなら、野球辞めよう。辞めてしまいたい」
とまで思いました。
――まるで奇跡のようなゲームを目の当たりにする瞬間までは。


4連続ホームランというのは、メジャー史上、40年ぶりなんだそうです。
そんな試合に、その瞬間に、ドジャーズのユニフォームを着て
その場にいれるということ、そして、すごいチームメイトたち、素晴らしい仲間たち
多くのファンの皆さんに囲まれて、励まされて、喜びを分かち合えること。
僕はなんて幸せ者なんだろう。
本当に、心から感謝しています。


(2006年9月の話です)