ダイアモックス


http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

登山予定の男性が薬を受け取る際、次のような質問をしました。


以前、高山病になったことがあったので、かかりつけ医に相談したところ
「この薬を山に登る前に飲むように」と言われました。
登り始めて頂上に立つまで何日もかかるのですが、いつ飲めばいいのでしょうか。

処方せん
* ダイアモックス錠 2錠 分2
 8〜12時間ごとに服用 5日分
* アスピリン 1回0.5g
 3回分 疼痛時頓用


◆Anser

ダイアモックスは呼吸を楽にする働きによって
高地での酸素不足で起きる頭痛、吐き気、息切れなどの症状を防ぎます。
高地に行く前の日から飲み始めて、登山中は8〜12時間ごとにお飲みください。
安全な高度まで下山して症状が出ていなければ、服用を中止してもよいでしょう。
アスピリンは、もし登山中に頭痛がひどくなったら服用するようにしてください。

◆解説

高山病は酸素の欠乏によって引き起こされる障害で
到達後6〜12時間で頭痛や睡眠障害、食欲不振、吐き気、呼吸困難などの症状が生じる。
1〜2日で軽快する軽症の急性高山病から
「高所性肺水腫」「高所性脳浮腫」のように
早急に治療の必要がある重症の病態まで含まれる。


高山病が発生する高度は通常、海抜2500m程度以上とされているが
高齢者や心肺機能に障害のある人では、より低い高度でも発症すると考えられている。


高地に到達すると、次のような順序で症状が進行する。
(1) 相対的な換気不足により低酸素血症が発生し、動脈血酸素分圧(PaO2)が低下する
(2) その代償として過換気状態となり、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)も低下する
(3) PaO2およびPaCO2の低下により肺高血圧が生じる
(4) 肺血流量の増加が加わると肺水腫が発生
(5) PaO2の低下は脳血管を拡張させ脳浮腫を発生させる。


救急措置としては、アスピリンなどによる対症療法、安静、保温、酸素吸入
ダイアモックス500〜750mgの内服、そして迅速な下山が基本となる。


ダイアモックスは、炭酸脱水酵素の抑制により、腎尿細管における
Na+、HCO3−の再吸収を抑制し利尿反応を引き起こし浮腫を改善する。
一方、増加したH+により代謝性アシドーシスが起き、呼吸中枢が刺激され
換気量が増大し低酸素・炭酸ガス換気応答が改善される。
また、中枢神経組織内の炭酸脱水素酵素の抑制が脳内CO2濃度を増加させて
その反射反応により血中O2濃度を高め、換気を促進する。


ダイアモックスは、高山病の予防薬としての効果も確立され
海外の登山遠征の常備薬の一つとされている。


服用方法は、ダイアモックス250mgを、高地に行く12〜24時間前から服用し始め
登山中も8〜12時間ごとに服用を継続するのが一般的である。
ただし、その利尿作用から脱水傾向のある人や
スルホンアミド系薬剤にアレルギーのある人は禁忌である。
副作用として、知覚異常や頻尿・多尿などが報告されているが
いずれも服用を中止すれば回復する。