糖尿病は大腸癌リスク因子

Am J Gastroenterol誌から
糖尿病は家族歴と同程度の大腸癌リスク因子
糖尿病患者は50歳以前から大腸癌スクリーニングすべき
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/digestive/202008/566628.html

糖尿病患者は大腸癌を発症するリスクが上昇しており、
大腸癌の家族歴を有する人と同程度のリスクであることが示された。
結果はAm J Gastroenterol誌7月号に掲載された。

比較的若い成人の大腸癌発生率は上昇しつつあり、
この年齢層に特有の危険因子を特定する重要性が増している。
大腸癌の家族歴は大腸癌の危険因子として確立しているが、
疫学研究のメタ解析から、糖尿病も大腸癌リスクの上昇と関係することが示唆されている。
そこでドイツやスウェーデンの研究者らは、大腸癌の家族歴と糖尿病が、
異なる年齢層の大腸癌リスクに及ぼす影響を評価する、コホート研究を実施した。

スウェーデンの家族癌データセット(1958~2015年)を
入院患者登録(1964~2015年)および外来患者登録(2001~2015年)と紐づけ、
大腸癌、糖尿病(妊娠および栄養不良に関連する糖尿病は除外)、
大腸癌の第一度近親者(親、兄弟姉妹、子)の家族歴などのデータを取得した。

大腸癌のリスクは標準化罹患比
(SIR:観察された大腸癌症例数と予想される大腸癌症例数との比)により定量化し、
大腸癌の家族歴や糖尿病の有無別に算出した。
また、大腸癌診断時の年齢(50歳未満と50歳以上)により層別解析を実施した。
SIRはすべて、性別、年齢、暦上の期間、社会経済的状態、居住地域により補正した。

1261万4256人のデータを解析した。
大腸癌患者は16万2226人(1.3%)が特定され、約21%は60歳より前に発症していた。
糖尿病患者は55万9375人(4.4%)であり、
そのうち10万1135人(18%)が50歳より前に診断されていた。

大腸癌の家族歴がない人を解析したところ、大腸癌診断時の年齢の中央値は、
糖尿病の既往がない人(14万4257人)では71歳、
50歳以上で糖尿病と診断された人(1万252人)では75歳、
50歳未満で糖尿病と診断された人(738人)では59歳だった。

大腸癌の家族歴がなく、50歳より前に糖尿病と診断された人の大腸癌のSIRは、
大腸癌の家族歴も糖尿病の既往もない人を基準にした場合、
50歳より前に大腸癌と診断された人で1.9(95%信頼区間[95% CI]:1.6-2.3)、
50歳以降に大腸癌と診断された人で1.3(95% CI:1.2-1.4)だった。

糖尿病の既往がない人の解析では、
大腸癌の家族歴がない人に対する、1人の家族歴がある人の大腸癌のSIRは、
50歳より前に大腸癌と診断された人で2.4(95% CI:2.2-2.6)、
50歳以降に大腸癌と診断された人で1.6(95% CI:1.5-1.6)だった。

大腸癌の家族歴も糖尿病の既往もない人を基準とした場合、
1人の大腸癌の家族歴があり、
50歳より前に糖尿病と診断された人の大腸癌のSIRは2.3(95% CI:1.7-2.9)であり、
1人の大腸癌の家族歴があり、糖尿病の既往のない人(1.6、95% CI:1.6-1.7)や、
大腸癌の家族歴がなく50歳未満からの糖尿病の既往がある人(1.4、95% CI:1.3-1.5)
と比べて大腸癌のリスクが高かった。

1人の大腸癌の家族歴があり、50歳より前に糖尿病と診断された人の大腸癌のSIRは、
大腸癌の家族歴も糖尿病の既往もない人を基準にすると、
50歳より前に大腸癌と診断された人で6.9(95%CI:3.8-11)、
50歳以降に大腸癌と診断された人で1.9(95%CI:1.4-2.5)だった。
50歳より前に大腸癌と診断された人では、
大腸癌の家族歴も糖尿病の既往もある場合、リスクが7倍近くに上ることが示された。

50歳より前に大腸癌となる生涯リスクを算出したところ、
一般集団では0.2%だった(95% CI:0.2-0.2%)。
一方、同リスクは大腸癌の家族歴がない糖尿病患者で0.4%(95% CI:0.3-0.4%)、
大腸癌の家族歴があり糖尿病の既往がない人で0.5%(95% CI:0.5-0.5%)であり、
いずれも一般集団の2倍以上となっていた。

著者らは、多くの国では大腸癌のスクリーニングの推奨開始年齢が50歳とされているが、
糖尿病患者については
50歳より前にスクリーニングを開始するよう検討すべきだと主張している。
ただし、今回の知見の根底にある機序についてはさらに明らかにする必要があり、
糖尿病と大腸癌の双方の罹患傾向を高める危険因子を解明する研究が必要だと指摘している。
また、高BMIや座り過ぎの生活は糖尿病と大腸癌に共通する危険因子であり、
これらの危険因子を有する人や糖尿病患者が多い国では
大腸癌のスクリーニングがより重要かもしれないとも述べている。

論文: Ali Khan U, et al.
Personal history of diabetes as important as family history
of colorectal cancer for risk of colorectal cancer: a nationwide cohort study.
Am J Gastroenterol. 2020; 115: 1103-9.