当帰芍薬散

女性に使用されることの多い漢方薬の中で、
今回は妊婦さんにも使用されることのある当帰芍薬散を取り上げます。
森田真樹子先生 京都大学医学部附属病院薬剤部 妊婦授乳婦薬物療法認定薬剤師
https://www.kampo-s.jp/web_magazine/back_number/340/pharmacist-340.htm
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薬剤師から患者さんへの説明

当帰芍薬散にはセリ科のトウキが含まれており、
セロリを嫌いな方は嫌がる味です。
逆に、セロリを好きな方は美味しい、
トマトジュースのような味という人もいます。


<当帰芍薬散の服薬指導例>
30歳代、妊娠27週目の妊婦。切迫早産のため入院となり、
入院時よりリトドリン点滴が開始。
リトドリンによる副作用(動悸、頻脈、手指振戦、顔面紅潮など)が出現したため、
数日後、当帰芍薬散が処方され、動悸、手指振戦などの症状が改善。
妊娠30週目、切迫早産の症は改善され、リトドリン点滴は減量後、終了し、退院。


初回面談薬剤師
「子宮の張り止めの点滴が始まりましたが、体調はいかがですか?
心臓がドキドキしたり、手がふるえたりしてませんか?」
患者「はい、心臓がドキドキしてますね。
手もこんな感じ・・・・・・(ふるえているのを見せる)。
この病院、暑いですよねー」
薬剤師「暑く感じるのも張り止めの薬による影響だと思います。
心臓のドキドキは時間が経つと慣れてくると思うので、様子をみてくださいね」


数日後、当帰芍薬散が処方されたため服薬指導を実施
薬剤師「お変わりないですか?」
患者「ドキドキは少しおさまってきましたけど、手はまだふるえています。
箸では食べづらいのでフォークとスプーンで食べています。
暑いので、クーラーの設定温度を下げてもらいました」
薬剤師「今日の晩から、張り止めによるドキドキなどを抑えるために
漢方薬が開始される予定です」
患者「漢方薬ですか・・・・・・」
薬剤師「セロリは食べられますか?」
患者「嫌いです」
薬剤師「それでは、この漢方薬の味はあまり好きじゃないかもしれません。
セリ科の生薬が入っているので、セロリっぽい香りがします」
患者「そうですか。うーん、でもがんばって飲んでみます」


当帰芍薬散の処方数日後
薬剤師「漢方薬は飲めましたか?」
患者「セロリの香りがしました。
でも、あらかじめ味のことを聞いていたせいか、意外と大丈夫でした」


妊娠30週目、退院時処方として
リトドリン内服薬と当帰芍薬散が処方され、退院時薬剤情報管理指導を実施
患者「点滴が終わって、楽になりました。
手のふるえもなくなりました。
漢方薬はまだ飲み続けたほうがいいのですか?」
薬剤師「飲み薬でも心臓がドキドキするなど、
点滴と同じ症状が起こることがあるので、
飲み続けたほうがよいと思います。
この漢方薬は、昔から妊娠継続のために使われてきた漢方薬でもあります」


当帰芍薬散は、
加味逍遙散、桂枝茯苓丸と合わせて三大婦人漢方薬といわれています。

当帰芍薬散は、華奢で色白の女性が適応になりやすいことから、
古くは「当芍美人」という表現がありました。
当帰芍薬散は、
比較的体力の低下した女性の月経不順や月経困難、
更年期障害に伴う不定愁訴などの婦人科疾患に幅広く用いられており、
その他に嗅覚障害1-3)、脳血管障害後遺症4)などの症例報告もあります。
京都大学医学部附属病院の産科では、
妊婦に子宮運動抑制の目的で投与されるリトドリンの副作用症状の軽減のために、
また単剤で子宮収縮抑制などに、当帰芍薬散が使われることが多いようです。

当帰芍薬散について
漢方医学の考え方では、血液の粘度が高く、血が滞る状態を瘀血といい、
月経痛や冷え、のぼせ、肩こりなどさまざまな症状として現れます。
駆瘀血剤の1つである当帰芍薬散には、血液の粘度を低下させ
血液循環を改善すると考えられているトウキ、センキュウが含まれています。

また、漢方医学では、
水のうっ滞が冷え症を起こすと考えられています。
当帰芍薬散には、利水作用のあるソウジュツ、
タクシャ、ブクリョウも構成生薬として含まれています。
ちなみに、生薬の利水剤は水分を過剰に排泄しないため
脱水状態には至らず、電解質のバランスも崩しません。
シャクヤクは筋肉の緊張を緩和させ、痛みをとります。

当帰芍薬散の構成生薬であるシャクヤク、センキュウ、トウキは
鎮静、催眠などの中枢抑制作用も持ち、
動悸、頻脈などの改善はこれらの薬理作用によるものと考えられています。