尋常性痤瘡

尋常性痤瘡(ニキビ)に頻用される漢方薬の使いどころを知る
http://www.kampo-s.jp/web_magazine/back_number/295/rensai2-295.htm
黒川晃夫先生 大阪医科大学附属病院 皮膚科





尋常性痤瘡の漢方治療で注意しなければならないポイントはいくつかあるが、
中でも、女性の場合、月経前に悪化するか否か、
並びに皮疹の色調の2点は、
漢方方剤を選択するうえでもっとも重要な所見である。
月経前に悪化する痤瘡は
下顎や口のまわりに好発し、やや黒ずんだ色を示すことが多い。
桂枝茯苓丸加薏苡仁は、
桂枝茯苓丸に抗炎症作用、抗酸化作用を有する薏苡仁(よくいにん)を加味した方剤で、
瘀血を呈し、比較的炎症の強い痤瘡によく用いられる。
十味敗毒湯は、
樸樕(ぼくそく)または桜皮(おうひ)を含む十味の生薬からなる方剤である。
小膿疱、小丘疹が散在する炎症初期の痤瘡にしばしば用いられ、
湿疹、蕁麻疹にも有効とされている。
樸樕は抗炎症作用を有する一方、
桜皮はプロゲステロンの皮脂分泌促進を抑制する作用が指摘されている。
このことから、十味敗毒湯の証で炎症の強い痤瘡には樸樕配合十味敗毒湯を、
月経前に悪化する痤瘡には桜皮配合十味敗毒湯を用いるよう、私自身使い分けている。


症例1:40代、女性
 主訴:顔面の痤瘡
 現病歴:以前より、頬部から下顎部にかけての痤瘡が増悪・寛解を繰り返していた。
 所見:頬部から下顎部にかけて、やや黒ずんだ痤瘡が多発していた。
 痤瘡は月経前に悪化する傾向にあった。皮膚は浅黒く、軽度の皮膚乾燥あり。
 舌:青紫色を呈し、舌下静脈の怒張あり。
 経過:アダパレン外用、リボフラビン酪酸エステル40mg/日、
 ピリドキサールリン酸エステル水和物60mg/日内服に加え、
 桂枝茯苓丸(TJ-25)5.0g/日 分2を併用したところ、
 痤瘡は徐々に改善傾向を示し、投与84日後には、
 桂枝茯苓丸を2.5g/日 分1に減量した。
 皮疹はさらに軽快し、投与112日後には廃薬となった。


 症例2:30代、女性
 主訴:顔面の痤瘡、便秘
 既往歴:自閉症
 現病歴:足底角化症にて治療を受けていた。
 顔面に痤瘡が目立つようになってきた。
 所見:下顎部中心に赤色の痤瘡がみられた。
 体格はよく、中等度の肥満を呈していた。便秘あり。
 経過:痤瘡、便秘に対し防風通聖散(TJ-62)7.5g/日 分3を投与し、
 痤瘡部分にはナジフロキサシンを外用した。
 投与14日後には便秘は改善傾向を示し、28日後には痤瘡も軽快してきた。
 考察:防風通聖散は、肥満のほか、肥満体質の便秘や皮膚病の改善などに適応される。
 また、便秘は、痤瘡などの皮膚症状をひきおこすことが知られている。
 本症例では、便通がよくなってから痤瘡が改善した。
 このことから、本症例における痤瘡は、
 便秘が誘発因子となっていた可能性が考えられる。