温泉、保育園……多様化するREIT市場

温泉、保育園……多様化するREIT市場
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO09631360X11C16A1000000/


国内市場に上場する不動産投資信託(REIT)で投資対象の多様化が始まった。
8月に温泉旅館を投資対象とする大江戸温泉リート投資法人が上場し、
オフィスビルや商業施設がほとんどだった市場に新たな風をふき込んだ。
一方、海外に目を向けると投資対象は
工場や病院、データセンター、さらに保育園など多様性では先を行く。
日本のREIT市場は変われるか、最前線を訪ねた。


■日本の温泉旅館への投資、REITで可能に
関西の奥座敷として知られる福井県の温泉地、あわら温泉
その中心地にある温泉旅館「芦原温泉 あわら」は
大江戸温泉ホールディングス大江戸温泉物語が経営する。
大江戸温泉物語が取得後、宴会場をバイキング料理を楽しめるレストランに改装した。
1泊2日で温泉とバイキング料理を1万円前後で楽しめる値ごろ感から、
シニア層を中心に楽しむ客が絶えない。


大江戸温泉物語は集客力の高い温泉地の老舗旅館を買収して事業を拡大してきた。
大江戸温泉ホールディングスに出資する米系投資ファンド
ベインキャピタル・ジャパンの小林隆プリンシパル
「運営方法の見直しで、老舗旅館を収益性の高い施設に変えた」と話す。
稼働率や1人当たりの単価の引き上げにつながった。


これらの施策で収益の安定した物件を保有するのが、大江戸温泉R(3472)だ。
「次の成長に備えて資金調達の手段を多様化する」(ベインキャピタルの小林氏)
という狙いで、今後も物件の取得を進め、新たなREITを上場させる考えだ。


REITは、投資家から集めた資金で不動産を取得し、
賃貸収入や売買益を投資家に分配する投資信託だ。
2000年の証券投資法人法の改正で不動産への投資が解禁され、
01年に上場第1号が誕生した。
日本では利益の90%以上を投資家に分配すれば、法人税がほとんどかからない。
「不特定多数から資金を集めてお金を生む資産を買い、資産の生み出すものを分配する」
という点では一口馬主などと同じ仕組み。
だが、投資家保護の観点から上場REITには、
不動産業や金融業の経験者が運用会社の経営に関わるほか、
投資家の不利益につながる取引を防止する仕組みが導入されている。


不動産証券化協会によると2016年10月時点で東証の上場REITの銘柄数は56、
時価総額は11兆5000億円。市場ができた01年9月に比べると銘柄数は28倍、
時価総額は約57倍まで増えた。
国際的に比較しても約109兆円(3月時点)の米国に次ぐ大きさだ。
米国やアジアのREIT、多彩な投資先


大江戸温泉Rのような銘柄も出てきたとはいえ、
東証に上場するREITの保有資産はオフィスに集中している。
不動産証券化協会によると、10月末時点で
上場REITの保有不動産の用途別保有額(取得価格ベース)では、
オフィスが4割以上を占め、商業施設(約19%)、住宅(16%)と続く。
日本ではREIT市場ができた当時、賃料収入が安定しているオフィスビル
受け入れられやすかったため、依然として資産はオフィスビルに集中している。


市場の成り立ちや制度の違いが影響しているものの、
米国は商業施設が多く、住宅とオフィスがほぼ同じぐらい。
森林が投資対象のREITも4つ上場する。
ラサール不動産投資顧問の西村章執行役員
「医療施設の入るメディカルモールも大きな投資対象だ」と話す。


欧州市場では商業施設に加え
「ガソリンスタンドなどサービス業の資産に投資するREITが出てきた」
(三井住友トラスト・アセットマネジメントの高垣勝己チーフファンドマネジャー)。
英Big Yellow Group PLCはロンドンなどのトランクルームに投資。
オーストラリアでは保育施設に投資する「Arena REIT」が上場している。


アジア圏では商業施設が主役だ。
S&Pが算出するREIT指数を見ると
アジア地域の構成銘柄の時価総額は10月末時点で約9兆円。
このうち香港の商業施設に投資するリンク・リートなど
商業施設を対象とするREITが4割以上を占める。
病院などを投資対象にするヘルスケアREITの時価総額
全体の2%を占め日本(0.3%)に比べて高い。
「インドや中国もREIT市場の創設を検討している」
(ラサール不動産投資顧問の西村氏)といい、今後も市場拡大の期待が強い。


アジア圏のREITは「賃料引き上げによる内部成長の余地が大きい」
三井住友アセットマネジメントの秋山悦朗シニアファンドマネージャー)、
無理な価格で物件を取得しないなど
「マネジメントも巧み」(三井住友アセットの秋山氏)といった評価もある。


■投資対象、日本でも拡大進むか
世界的な超低金利政策の下、
相対的に利回りの高い商品として買われてきたREITだが、
足元は資金が流出している。
米大統領選で共和党ドナルド・トランプ氏が勝利し、
米国では長期金利の上昇観測が強まっている。
この流れは日本にも波及し、新発10年物国債の利回りは16日、一時0.035%までに上昇した。
分配金の利回りの優位性が薄れると同時に、
不動産取得コストの上昇懸念も加わって大手REITは軒並み下値模索の局面にある。


米次期政権の政策運営を巡る思惑が交錯する中、
金融資本市場の先行きには不透明感も残る。
REIT市場は当面、逆風にさらされそうだ。


この環境で投資先の多様化は、市場活性化のカギを握りそう。
それぞれの資産の収益の安定性を前提にすれば、
UBS証券の田沢淳一シニアアナリストは
保有資産の多様化が進む方が、市場や投資家層の拡大につながりやすい」と指摘する。


東京証券取引所も新たな種類の資産を組み込んだREITの上場を進める。
14年以降ガイドラインが整備され、
介護施設や病院に投資するヘルスケア型REITの運用が可能になった。
第1号の日本ヘルスケア投資法人(3308)は介護施設保有
運用する大和リアル・エステート・アセット・マネジメントの安住健太郎営業推進部長は
「オフィスや商業施設に比べて家賃収入の変動が少なく、分配金の支払額も安定している」
と話す。中国銀行など国内金融機関が上位投資口主に並ぶ。


東証上場推進部の内藤友則課長は
民法上の不動産に当てはまればREITの保有資産対象になりうる」と話す。
東証も、資産の拡大に向け、地方の不動産に投資するREITに上場を促したり、
関係各庁と組んで病院関係者向けにREITの仕組みの説明会を開いたりしている。


国土交通省は不動産投資市場の成長戦略として、
20年ごろにREITなどの資産規模を約30兆円に倍増させる計画を打ち出している。
「法律の整備さえ進めば、墓地や教育施設も投資対象にできる」
(アイビー総研の関大介代表取締役)との指摘もある。
逆風の中でも投資対象を広げ、市場の中での分散投資を促せるか。
アベノミクスという追い風がなくなったいまこそ、
市場の魅力を訴えて投資家を呼び込めるか、REIT市場は正念場を迎えている。