循環器病棟の飲料水にスタチンを

スタチンからの「勇気ある撤退」
慶應義塾大学内科学 香坂 俊 先生
https://medical-tribune.co.jp/rensai/2015/1013037463/?mi=00128000005wKfsAAE&fl=1



◆研究の背景1:
薬剤を"間引く"RCT(前向きのランダム化研究)からリアル・ワールドに役立つエビデンス


WOEST試験(Lancet 2013; 381: 1107-1115)。
現行のガイドラインでは,
① 冠動脈ステント手技〔術後に2剤の抗血小板薬(dual antiplatelet therapy;DAPT)
を要する〕と
② 心房細動や人工弁置換(長期的に抗凝固療法を要する) が運悪く重なってしまった場合,
結果的に3剤 血液をサラサラにする薬剤 を使うことになってしまう
(DAPT2剤+抗凝固薬1剤)。
そこでこのWOEST試験では,上記の3剤が重なった状況で,
DAPTのうち1剤を抜くか抜かないかをランダム化し,比較した。


結果,DAPT1剤を抜いても血栓性イベントのリスクは変わりなく,
出血性イベントをむしろ強力に下げるという結果が得られた。
このことは驚きを持って受け止められ,
現在各国の循環器系のガイドラインは大きく修正される方向に動いている。


例えば,2015年9月に発表された欧州の急性冠症候群のガイドラインでは,
三剤を重ねる症例でも,可及的速やかに(1〜6カ月で)2剤に減らすように推奨されている。


◆研究の背景2:動脈硬化性疾患に効果のあるスタチンを間引けるのか?


今回は上記のWOEST試験と同じく薬剤を積極的に"間引く"系統の減算型RCTを取り上げる
(JAMA Intern Med 2015; 175: 691-700)。
そして,そのターゲットはスタチンであった。
スタチンについては,「循環器病棟の飲料水に入れても良い」
といわれるほど動脈硬化性疾患一般に効果がある薬剤であるが,
果たしてこれを間引くことができるのであろうか?


実はこの試験の対象となったのは,予後が1年以内と判断された方々である。
スタチンは無敵といわれてはいても,それなりにコストや副作用が発生し,
例えば末期がんなどで患者さんの長期的な予後が制限される場合に
中止してもよいのではないか,というのが仮説である。


◆研究のポイント:予後に差はなく,スタチン中止群でQOLスコアが有意に高い


動脈硬化性疾患の初発・再発予防のために
3カ月以上スタチンを服薬している381人の方々が試験に登録され,その平均年齢は74.1歳。48.8%の方が担がん患者であり,22.0%の方が認知障害を有していた。
これらの患者さんを2群に分けて60日後の予後とQOLを検証した訳だが,
予想通り,スタチンを中止したとしても死亡率に大きな差は認められなかった。


予想を上回っていたのは,QOLの改善の度合いである。
QOLスコアの合計はスタチン中止群の方で良く,これは統計学的にも有意であった。