糖尿病性神経障害

3大合併症の一つ、神経障害
よく知れば怖くない糖尿病の話
http://apital.asahi.com/article/hirosaki/2015033000022.html



慣れない正座をしたら、足がしびれてしまった。そんな経験はありませんか。
このしびれは足の神経が一時的に障害されることにより起こります。
神経は全身のあちこちに網の目のように張り巡らされた電線のようなもので、
体の情報を伝達する働きがあります。


糖尿病になり高血糖状態が長く続くと、
全身の神経が障害を受けてしまい、様々な症状が出現します。


神経障害は腎症、網膜症と並び糖尿病によって起こる3大合併症のひとつです。
神経障害はこれらの中でも早期に出現し、最も頻度が高い合併症です。


約20万人の糖尿病患者を対象とした国内調査によると、
糖尿病と診断されて10年ほど経過した患者さんの47・1%に神経障害が認められました。

 
糖尿病性神経障害は高血糖の状態が続くことで起きますが、
その仕組みについては、まだはっきりと分かっていません。


高血糖の状態が続くと「ソルビトール」という物質が神経細胞に蓄積し、
これが原因となって神経線維に障害が起こるとされています。
また糖尿病のために動脈硬化が進むと、毛細血管が詰まりやすくなり、
神経に必要な栄養や酸素が届かなくなるために障害が起こるという説もあります。


糖尿病性神経障害の症状はさまざまです。
もっとも多い症状は「しびれ」です。
手足の先、ちょうど手袋や靴下で覆われる部分からしびれ、
痛み、感覚の低下が始まり、それが徐々に体の中心に向かって広がっていきます。


手足の冷えや、夜中に足がつる(こむら返り)というのもよく見られる症状です。
腸の神経が障害されることにより、便秘や下痢が起こりやすくなる場合もあります。
また、その他にも立ちくらみやめまい、発汗異常(寝汗、足の発汗低下)、
若い男性ではED(勃起障害)など、
一見糖尿病とは関係がなさそうな多彩な症状を呈します。
その半面、自分ではほとんど気づかないうちに神経障害が進行している患者さんもいます。
診断の際には、竹串やゴム製のハンマー、音叉(おんさ)などを使って
足の感覚を調べるほか、心電図の解析などを行います。


糖尿病性神経障害の治療としては、
神経障害の原因物質である「ソルビトール」を神経細胞に蓄積させないようにする
アルドース還元酵素阻害薬や、神経再生を促すビタミン剤の投与が行われます。


また、しびれや痛みが強い患者さんには鎮痛薬や抗うつ薬
漢方薬などが投与される場合もあります。
ただ残念なことに現状では、糖尿病でいったん悪化した神経を完全に治すのは、
かなり困難です。飲めば直ちに効くという薬は今のところありません。


そのため、神経障害を発症させないような予防対策や、
悪化を防ぐための早期発見・早期治療が重要です。
一番大切なのは、なんと言っても血糖コントロールです。
飲酒や喫煙、高血圧も糖尿病性神経障害の危険因子ですので生活習慣の見直しも必要です。

 
弘前大学大学院医学研究科内分泌代謝内科学講座講師 村上宏先生)
(2014年5月30日 朝日新聞掲載)