カイコが先端工場に 発光する絹糸や医薬品

カイコが先端工場に 発光する絹糸や医薬品
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO73838280V00C14A7MZ9001/?dg=1


日本の近代化を支えた「お蚕さま」が、再び脚光を浴びている。
遺伝子工学を駆使し、光るなどの機能性を持つシルクが開発されたほか、
化粧品や医薬品の原料をカイコに作らせる研究も進む。


暗闇の中、青色のライトで照らすと、
十二単(ひとえ)のような舞台衣装が緑やオレンジなどの幻想的な光を放った。
茨城県つくば市にある農業生物資源研究所
滋賀県長浜市の浜縮緬(はまちりめん)工業協同組合と共同開発した。


光って見える素材はシルク(絹糸)で、遺伝子組み換えカイコの繭から作った。
クラゲやサンゴの蛍光たんぱく質の遺伝子を組み込み、
光るたんぱく質を含んだ糸を作り出すようにした。
農業生物研はこれまでに緑やオレンジのほか、
赤や紫など11種類の光るシルクを開発している。


カイコ3万匹分の繭は約50キログラムで、約8キログラムのシルクが取れる。
光る衣装を作るには、1着につき1万〜3万匹のカイコが必要になる。
そのためには、遺伝子組み換えカイコを大量に飼う技術を確立する必要がある。


農業生物研は、オワンクラゲの蛍光たんぱく質の遺伝子を
組み込んだカイコを飼育する実験を始めた。


プレハブ小屋だが、外部から人間が入らないように敷地の周辺はフェンスで囲われている。
年内に2回に分けて、約1万5000匹ずつ遺伝子組み換えカイコを飼育する。
「飼育技術の確立を目指すと同時に、生態系への影響がないかどうかも調べる」
と飯塚哲也主任研究員は説明する。


群馬県の蚕糸技術センターは一昨年から、
網で覆った飼育室で遺伝子組み換えカイコを飼っている。
カイコは飼育場所から逃げず、成虫になっても飛ばないことから、
今回の飼育試験では網で覆ったりせずに、農家がさらに飼いやすい形で試験を進める。


農業生物研がカイコの遺伝子組み換えに世界で初めて成功したのは2000年。
これまで遺伝子組み換えカイコが紡ぐ光るシルクを使って、
ニット製品やウエディングドレスも試作している。
このほか、抗菌シルクや超極細シルク、
医薬品の原料となる抗体などの有用たんぱく質の生産にも成功している。


たんぱく質は繭1個につき100マイクログラム〜10ミリグラム取れる。
カイコの体内には絹の原料になるたんぱく質をため込む絹糸腺があり、
そこで有用なたんぱく質を作らせることができる。


動物の細胞や微生物などに比べて
大量のたんぱく質を作れる「昆虫工場」としての利用に期待が集まる。
培養タンクなど大型の設備が必要なく、
有用なたんぱく質を取り出すのに手間もかからない。
医薬品の生産コストを大幅に下げられる可能性がある。


研究用試薬などを開発する免疫生物研究所は1日、
遺伝子組み換えカイコが作るヒトコラーゲンを使った化粧品を発売した。


酒造会社の大関兵庫県西宮市)は
免疫生物研究所や農業生物研などから関連する技術を導入。
遺伝子組み換えカイコを使って有用たんぱく質を作り、提供するサービスを5月に始めた。


免疫生物研究所はインフルエンザワクチンの原料となる
たんぱく質を作る遺伝子組み換えカイコの開発にも成功した。
アステラス製薬と組んで医薬品の原料となる有用たんぱく質の生産にも乗り出している。


工場内のクリーンルームで人工飼料を使って
10万〜20万匹の遺伝子組み換えカイコを飼い、
繭から取り出したたんぱく質を供給する計画だ。


遺伝子組み換えカイコが作る高機能シルクやたんぱく質
「人工血管や再生医療用のスポンジやフィルム、オーディオの絶縁材など幅広い用途がある」
と農業生物研の飯塚主任研究員はいう。


カイコは紀元前から飼育され、繭からとれる美しい絹糸で人類を魅了してきた。
遺伝子組み換えカイコが新たな養蚕業を紡ごうとしている。


昆虫に医薬品などの原料となるたんぱく質を大量生産させること。
東レはバキュロウイルスにインターフェロンの遺伝子を組み込み、
そのウイルスをカイコに接種して、インターフェロンを量産することに成功。
1993年から動物医薬品として販売している。


■昆虫工場、有用な原料たんぱく質を量産 
カイコにウイルスを接種しなければならず手間がかかることなどが課題。
このため、いったん作ると何代にもわたって飼える
遺伝子組み換えカイコを昆虫工場として利用する方法に注目が集まる。
ただ、組み換えカイコが作るたんぱく質を医薬品の原料として使うには、
カイコを凍結保存するなど医薬品の品質を担保する技術開発が必要だ。