決算短信

決算の5つの利益、わかりますか?
第5回 決算短信
http://www.nikkei.com/money/features/38.aspx?g=DGXNMSFK3001J_30042014000000



マネーの達人、公認会計士・税理士の山田真哉さんに
旬のマネートピックをあれこれ聞くこのコラム。
今回のテーマは「決算短信」です。


■数字よりも文章を見る
 ――いまは会計士としてではなく、個人投資家として決算短信を見ると思いますが、
一番どこに注目しますか。


「数字も見ますが、僕が一番読むのは文章です。
『あれもこれも成功した結果、減収でした』というような
日本語として成立していない文章も結構あって、読み物として面白いですよ」


 ――文章とは、「経営成績に関する分析」などですね。


 「そうです。数字のウソはダメですが、文章だと
スリードするような内容のものが結構あります。
それを読みながら、なぜこの会社は減収になったのかなどと、考えるのが好きです」


■経営の方向性がわかる


「企業が何に力を入れようとしているのかもわかります。
先日、すき家松屋吉野家の短信を読み比べてみましたが、
各社とも家族向けのメニューを充実させるとか、
品ぞろえを増やすというようなことが書いてありました。
ああ、今や牛丼も男性が一人で食べるものではなく、
流れとしてはファミリーなんだなということがわかりましたよ」


 ――でも文章だけでは、それこそミスリードされる可能性もあるわけですよね。
数字はどこを見ればいいでしょう。


「基本は売上高と利益です。
『増収増益』『増収減益』『減収増益』『減収減益』という4つの4文字熟語を暗記して、
売上高と利益の数字をこの四文字熟語に置き換えてしまえばいいんです。
関心のある企業が増収増益なら、株を買ってみようかとなるだろうし、
減収減益ならダメだとなります」


 ――増収減益、減収増益の場合はどう考えればいいですか。


 「これは見方が分かれます。
増収減益なら新規開拓などで拡大したけど経費も膨らんでしまったということだし、
減収増益ならリストラをして不採算部門を売却している可能性があります。
利益重視の人と売上高重視の人がいますが、
僕はどちらかというと売上高重視主義者なので、増収減益のほうを評価します。
売り上げがすべての源泉だと思うし、利益重視が行き過ぎると
小さくまとまってしまって思い切った投資などができなくなる傾向がありますから」


■「ときめき基準」で銘柄選び


 ――で、迷った場合は文章を読むというわけですね。


「そうです。そこに書かれていることを読んでピンとくるかどうか、
ときめくかどうかで株を買うか買わないか一つの判断材料になります」


 ――例えば、2月期決算のイオンの決算短信(4月10日発表)をもってきました。
2ページ目に経営成績に関する分析がありますね。


「ふむふむ、ああここに『アジアシフト』『都市シフト』
『シニアシフト』『デジタルシフト』を推進とありますよね。
こういうの面白いですね。都市シフト、シニアシフトか、
なるほど!とピンと来るなら投資対象として考えればいいし、
そんなの別に新味がないと思うなら、株を買わなければいいんです。
ここには企業経営の方向性が書かれています。
ヒットした本のパクリですが、『ときめき基準』で選べば、
悔いが残らない投資ができるのではないでしょうか」


 ――では、やはり2月期決算の東宝(4月14日発表)を読んでみましょう。
「『風立ちぬ』が大ヒット、『永遠の0』も大ヒット、演劇事業でも様々な話題作を提供。
その結果、営業収入は前年度比2.3%減となりました」。


「こういうのは行間を読むんです。
大ヒットした映画の陰にあんまりヒットしなかった作品があるんだろうなとかね。
先ほどの売上高、利益のほかにセグメント情報も大事です。
特に連結経営になってその会社の稼ぎ頭の事業は何なのかが、
外側からはわかりづらくなりました。それを知るにはセグメント情報を見る必要があります」


■セグメント情報で稼ぎ頭がわかる


 ――事業内容や地域ごとの収益が書かれたページですね。


東宝のライバル企業である松竹の短信を見てみましょう。
松竹を投資対象に考えたとき、あの映画がヒットしているから株を買おう、
というように考えがちですが、セグメント情報を見ると考え方が変わるでしょう。
利益のうち映画事業が占める割合は不動産事業よりもはるかに小さい。
松竹の経営の先行きを考えるときには、
映画よりもむしろ不動産事業がどうなるのかに注目すべきだということがわかります」


――なるほど。先ほどの増収増益や減収減益というときに、
利益はどの利益を見るべきですか。決算短信を見るといくつか利益の種類があります。


売上総利益、営業利益、経常利益、税引き前利益、純利益の関係は
図解してみるとわかりやすいです。
要は、売上高からそれぞれの取り分を差し引いていって、残ったものが利益です。
お客さんからもらったお金の合計が売上高、
そこから仕入れなど取引先の分と社員の取り分を差し引いたものが営業利益、
さらに銀行の取り分を引いたら経常利益、経常利益から災害に遭ったとか、
不採算店舗を閉鎖したとか突発的な出費を引いたのが税引き前利益、
そして最後に国の取り分、つまり税金を引いたのが純利益です。
そしてその純利益のうちどれだけを会社に残して、
どれだけを株主に配分するのか、それが配当性向になります。
取引先・社員……と上から順に会社にとって大事なものが並んでいるんです。
会計側からの視点ですが。
いろいろ差っ引いて、最後に残った純利益が増益なのか、減益なのかを見ればいいでしょう」