ノーベル賞シラー教授の分析が示す「日本株は割高」

ノーベル賞シラー教授の分析が示す「日本株は割高」
http://www.nikkei.com/markets/column/scramble.aspx?g=DGXNMSGD2905Z_29102013000000



「株式相場はやや割高だ」――。
今年のノーベル経済学賞の受賞が決まった
エール大学のロバート・シラー教授は10月中旬、大学での記者会見で、
史上最高値を更新する米国株式相場に言及し、買われすぎとの認識を示した。


シラー教授は、行動経済学の研究や、住宅価格の指標である
「S&Pケース・シラー住宅価格指数」の開発で知られる一方、
株式の割安・割高を測る指標も考案している。
日本の市場関係者にはあまり知られていないが、
欧米ではアナリストなどが分析に多用する。


「CAPEレシオ(景気変動調整後の株価収益率=PER)」
と名付けられたこの指標は、株価を1年間の予想利益や
実績利益で割って算出する一般の株価収益率(PER)と異なり、長期の利益を使う。
株価を、過去10年の平均利益に配当や物価変動を加味した値で割る計算方法。
景気循環の影響を排除し、企業の真の実力値と株価を比較しようとする指標だ。


S&P500種株価指数のCAPEレシオは、シラー教授のホームページで確認できる。
25日時点では24.64。
過去、2000年前後のIT(情報技術)バブル期を除くと、
CAPEレシオが25倍前後まで上昇すると株価が下落に転じるパターンが多かった。
シラー教授の発言は、このCAPEレシオを念頭に置いている。


翻って日本。
日経平均株価は1万4000円台半ばになると上値の重さが目立つ。
CAPEレシオでみると日本の株価は割高なのだろうか。


ニッセイ基礎研究所の井出真吾主任研究員が、日経平均や日本企業の利益を使って
CAPEレシオ(配当や物価上昇率は加味せず)を算出したところ、
9月末では24倍強だった。
日経平均の水準は9月末からほぼ横ばいのため、
足元のCAPEレシオも25倍近いとみられる。
米国の過去の経験を当てはめると、こちらも割高と判断される水準だ。


日経平均のCAPEレシオは金融危機以前は、
恒常的に40倍を超え、米国に比べて高い傾向があった。
1980年代のバブル期にPERが高水準まで持ち上げられ、
その水準訂正が長期に続いたためとみられる。
株式の持ち合い解消が進み、外国人の売買比率が6割まで高まったことで、
ようやく海外と比較できる水準に低下してきた。
野村証券の田村浩道チーフ・ストラテジストは
「投資のグローバル化で、日本株だけでなく
各国の投資指標の数値が収れんする方向にある」と指摘する。


外国人投資家は各国のPERや
CAPEレシオを基礎資料として比較するようになっており、
日本株がかつてのように欧米とかけ離れた水準まで上昇することは考えにくい。


昨年11月からの上昇局面を振り返ると、
日本のCAPEレシオは15倍と、米国の21倍に比べ大幅に割安だった。
だからこそ、割安感に着目した海外投資家の買いが急速に広がった。
足元でCAPEレシオの水準は米国と同水準となり、
海外投資家には買われにくい水準になっている。
通常のPERでみても、日米ともに16倍弱で
日本株が優先的に買われる理由はそれほどない。


今後、日本株が米国株以上に上昇するには、経済の成長期待が高まり、
ある程度のプレミアムが許容されるようになるしかない。
野村の田村氏は
「経済が拡大する米国のPERは16倍まで買われるだろうが、
アベノミクスへの期待が高まれば、日本株は17倍までは買われる可能性がある」とみる。


海外のヘッジファンドは春先には、円安・日本株高のシナリオを描いて買ってきた。
円安ドル高傾向が一服したため、こうした投資行動は鳴りを潜め、
代わって「出遅れた銘柄を拾うヘッジファンドが中心になっている」
機関投資家向けのファンド・オブ・ヘッジファンドを運用する
BFCアセットマネジメントの川名教之会長)という。
企業の株価水準を厳しくチェックしながら買う投資家で、
株価を押し上げるような買い方はしない。


海外勢が日本への関心を失ったわけではなく、
物価や賃金が実際に上昇し始めるかどうかを
アベノミクスのチェック項目としてつぶさに検証している。
特に「春の賃金交渉への関心は非常に高い」
メリルリンチ日本証券の神山直樹チーフストラテジスト)。
レンジ相場の先に株価が上昇するかどうかは、
日本経済が実際に「変化」できるかどうかにかかる。


Robert J. Shiller
Sterling Professor of Economics Yale University