柴胡加竜骨牡蛎湯 サイコカリュウコツボレイトウ

私の漢方診療日誌
抑肝散以外にも、BPSDに柴胡加竜骨牡蛎湯
平塚共済病院 神経内科医長 中江啓晴先生
http://www.kampo-s.jp/magazine2/196/rensai.htm



アルツハイマー病では周辺症状として
意欲低下、うつ症状、攻撃的行動、徘徊、幻覚、妄想などの
精神症状・行動異常がしばしば出現します。
周辺症状は近年、認知症の行動・心理症状
(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)
と呼ばれ、介護上の問題となることから注目されています。 
このBPSDの治療にも漢方薬が有効です。


Bさんは84歳男性です。
5年前から出現した物忘れのため、2年前から当科に通院していました。
改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)は16点で、
DSM-IVの診断基準からアルツハイマー病と診断され、塩酸ドネペジルを内服していました。
いつも奥さんと一緒に通院しているのですが、奥さんが言うには、
1年前から1カ月に1回程度ですが急に怒るようになったそうです。
最近は3日に1回程度、急に怒るようになったため、困った奥さんから相談されました。


この急に怒る症状はアルツハイマー病に伴うBPSDです。
さっそく漢方医学的所見をとりました。
脈診ではやや沈で虚の脈で、舌診では白苔を認めました。
腹診では腹力はやや弱く、胸脇苦満、腹皮拘急、臍下悸、臍下不仁を認めました。
漢方医学的所見からはちょっと合いませんが、
今回はツムラ柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)を選択しました。

 
1カ月間内服をしたところ、怒る回数は1週間に1回に減りました。
また怒り方が以前よりも穏やかになったため、
怒ったとしても家族が対応しやすくなったようです。
BPSDは改善傾向となったようでした。


アルツハイマー病ではBPSDを9割以上に認め、無為、無関心が最も高頻度ですが、
妄想、異常行動もしばしば認められます。
BPSDの治療には非定型抗精神病薬である
リスペリドン、アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピンなどが使用されますが、
認知症高齢者のBPSDに対して非定型抗精神病薬を用いた場合、
プラセボと比較して死亡率が1.6-1.7倍高くなることから、
投与は慎重に行うべきとされています。


このため近年はBPSDに対する治療として抑肝散が注目されており、
アルツハイマー病、レビー小体型認知症のBPSDに対して
有効であったとする報告が散見されます。


ですが、抑肝散の構成生薬には甘草が含まれており、抑肝散により
偽性アルドステロン症を生じたアルツハイマー病の報告も散見されています。


柴胡加竜骨牡蛎湯には
偽性アルドステロン症の原因となる甘草が含まれていませんので、
抑肝散により偽性アルドステロン症をきたした症例に対しても
使用可能な点が優れていると思います。


アルツハイマー病のBPSDに対して柴胡加竜骨牡蛎湯を投与する場合、
漢方医学的証に関わらず投与しても
2人に1人は効果があるように思いますので、
第一選択としてもよいかもしれません。


柴胡加竜骨牡蛎湯
柴胡5.0
半夏4.0
桂皮・茯苓 各3.0、
黄芩・大棗・人参・牡蛎・竜骨 各2.5
生姜1.0