心臓喘息

夜間に喘息様の発作を起こした心不全患者
 
日経DI 2004年10月号から2005年9月号に掲載したクイズ
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

71歳女性の娘
母は、心臓があまり丈夫でなく、近ごろは慢性心不全と言われていました。
先日、寝床に入ってから少しすると、急に咳や痰が出て、
息が苦しくなり、ゼーゼーと呼吸をするたびに音が出ました。
慌てて救急車を呼んで、病院で先生に応急処置をしてもらったら、
心臓喘息だと言われました。どうして心臓が悪いと喘息が起きるのでしょうか。

処方せん
ジゴシン錠0.125mg 1錠

レニベース錠5 1錠

 1日1回 朝食後服用 28日分
トロールRカプセル20mg 2カプセル

 1日2回 朝夕食後服用 28日分


◆服薬指導

心臓喘息は重い心不全が原因になって起こる症状です。
症状が喘息とよく似ているので、心臓喘息と呼ばれますが、
普通の喘息とは全く異なるものです。

肺の血管に血液が溜まって呼吸がしにくくなり、
息苦しさや咳などの症状が出たと考えられます。
呼吸するたびに出たゼーゼーという音は、
気道の付近にもむくみが生じて、気道が狭まったことによるものです。

◆解説

 慢性心不全とは、心機能が徐々に低下し、全身組織の代謝に必要な血液量を拍出できなくなった状態であり、肺または体静脈系にうっ血を来し、生活機能に障害を生じた病態をいう。原因となる基礎疾患には虚血性心疾患や弁膜症などがあるが、主たる障害が右心系にある右心不全と、左心系にある左心不全に大きく分けられる。

 右心不全では、右室の後方にある静脈や肝臓がうっ血するため、肝腫大や浮腫、静脈怒張などを起こす。一方、左心不全では、左室の後方にある肺循環がうっ血し、ガス交換が障害されて呼吸困難を生じる。軽度の場合は、易疲労感や労作時の息切れだが、進行すると安静時にも呼吸困難を生じるようになる。

 Fさんは、重篤な左心不全から、夜間発作性呼吸困難を起こしたものと推測される。夜間発作性呼吸困難とは、就寝から数時間後に突然、呼吸困難や咳、痰を生じて覚醒する症状をいう。発症機序の詳細は不明であるが、臥位をとったことで下半身の静脈圧が低下し、血管外水分が血管内に移行して静脈還流量が増大することが要因と考えられている。また、睡眠によって呼吸中枢の反応性が低下し、低酸素血症がかなり進んでから発作的に症状が起こる、ともいわれている。

 夜間発作性呼吸困難では、呼吸困難と咳に加えて、喘鳴が現れることがある。肺うっ血によって肺間質や気管支粘膜に浮腫を生じ、気管支が閉塞することが原因とされており、症状が気管支喘息の発作とよく似ているので、“心臓喘息”と呼ばれる。心臓喘息では、起き上がって座り、静脈還流を腹部や下肢にシフトさせると改善することがあるが、できるだけ早く受診して処置を受けることが大切である。

 心臓喘息の症状に加えて、血痰や泡沫状のピンク色の痰が現れるようになったら、さらに緊急性を要する。このような場合、肺毛細血管圧が著しく上昇し、血管内の水分が漏出した肺水腫を来しており、直ちに適切な治療を行わなければ、死亡する危険性がある。

 なお、Fさんの場合は、急性期の治療を終えて状態が安定したので、外来での薬物治療が再開されたが、きちんと服薬するようしっかりと説明しておくことが重要である。自己判断による服薬中止などのコンプライアンス不良が、慢性心不全の大きな増悪要因の一つであるからだ。