子どものかぜに漢方薬はどう使ったらよいでしょうか

「漢方道場−小児科編」
中島俊彦先生(岐阜県・なかしまこどもクリニック院長)
http://www.tsumura.co.jp/password/magazine/191/dojo.htm


1.子どものかぜ症候群に漢方薬はどう使ったらよいでしょうか?

小児科診療は「発熱に始まり発熱に終わる」と言えるでしょう。
発熱した患児にはまず発汗療法です。
自分で熱を上げて病原体に対抗しているのをお助けすれば良いのです。


高熱を伴う場合は、麻黄湯がファーストチョイスです。
「早めに多めに熱め」にと故広瀬滋之先生が言われたように
寝ている時間を除いて3-4時間間隔で飲むことです。


麻黄湯の内服を開始して、
1)汗をかいた(排尿があった)、
2)37.5℃以下になった、
のいずれか1つでもみられたら内服中止です。


発熱がある、汗をかいていない、
まだ元気はあるという条件さえ合えば内服開始です。
咽頭炎、インフルエンザなども軽症であれば1-2日以内に解熱します。


元気がなく、ぐったりしている時は大青竜湯を使います。
エキス剤はありませんので、汗をまだかいていないときは、
麻黄湯と越婢加朮湯の2つを一緒に飲んでもらいます。


また、すでに汗をかいた時は桂枝湯と麻杏甘石湯の2つを一緒に飲んでもらいます。
汗をかいた後、一旦解熱したが再び熱が上がってくる時には、
麻黄湯を飲まずに柴胡剤と呼ばれる漢方薬を処方します
(ここは結構キーポイントになります)。
小柴胡湯柴胡桂枝湯が良いでしょう。
1日2-3回に分けて解熱するまで続けます。
発熱が持続する、咽頭所見などから細菌感染が疑われる時は抗生剤の併用は可能です。

2.インフルエンザにかかってしまいました。漢方薬で治りますか?

漢方薬で治療できます。
西洋薬は病名がつけば薬が処方できます、
裏を返せば病名がわからなければ薬が出せません。
漢方薬は病名がわからなくても患者さんの症状、病態さえわかれば薬を決定できます。


発熱した、まだ汗をかいていない、
元気はある時は、病名に関わらず麻黄湯でまず大丈夫です。
インフルエンザの保険適用にもなっています。
ただし、虚弱、胃腸の弱いお子さんは適応外です。


発熱してからまだ数時間であれば、結果的に風邪であろうが
インフルエンザであろうが麻黄湯で構わないのです。
発熱してからまだ数時間でインフルエンザの検査もできない、
しかし保育園で流行中などという状況では麻黄湯を開始です。
病名診断は後でつければよいのです。


飲み方はかぜ症候群の時と同様に短時間で頻回に飲みます。
オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、ペラミビルとは
作用機序が異なりますので、併用しても問題はありませんが、
併用することによって早く解熱するかどうか等の検証は今後の課題です。

3.気管支炎の治療に漢方薬はどう使えば良いですか?

かぜがこじれて上気道から下気道に炎症が及びます。
2009年の新型インフルエンザと呼ばれたA/H1N1はいきなり下気道炎を起こします。
漢方薬は炎症をコントロールすることは得意ですが、
病気の時期、部位、生体の反応などを細かく限定しています。


葛根湯、麻黄湯は上気道炎にはもっぱら強いですが、下気道炎には使えません。
気管支炎では咳が問題になります。
咳は乾性か湿性かをまず区別します。
保護者に「痰がからみますか?」と質問します。
また「昼と夜でどちら咳が多いですか?」と聞きます。
乾性咳漱には麦門冬湯を用います。
のどがむずがゆい、乾燥する、声がかすれるといった時には有効です。
湿性咳漱には麻杏甘石湯です。
ほぼ同じ生薬で構成されている五虎湯もあります。
湿性咳漱、気管支喘息にも適応があります。
咳込んで治まりが悪い時、咳をしすぎて胸が痛む時は柴陥湯です。


夜間から明け方に咳が多いが、
聴診では異常ない時は後鼻漏、副鼻腔炎を疑ってください。
この場合は葛根湯加川芎辛夷辛夷清肺湯を併用します。
最近は小柴胡湯を単独で4時間おきに内服すると
気管支炎、肺炎が治る経験をしており、
小柴胡湯も気管支炎の治療の1つの手として使っています。
細菌感染の合併やマイコプラズマ感染症を疑う時は抗生剤と併用しても構いません。