イトリゾール

抗真菌剤のパルス療法と睡眠剤服用のタイミング

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

10日前に皮膚科で爪白癬のパルス療法のため
内服の抗真菌剤を処方された30歳の男性が、次のような質問をしました。


10日前にそちらでいただいた薬を指示された通り、1週間で飲み終えました。
睡眠薬を飲みたいのですが、今夜は睡眠薬を飲んでも大丈夫ですか。

処方せん
イトリゾールカプセル50 8カプセル
 1日2回 朝夕食後 7日分

この患者には、内科診療所からハルシオン0.25mg錠が処方されている

◆服薬指導

イトリゾールは1週間飲んで3週間休むという服用方法のため
次の服用を始めるまでの間は何も飲まないのですが
イトリゾールが体の中からなくなるまで
少なくとも数日はかかることがわかっています。
ですから、個人差などを考えると
念のため最後の服用が終わって3週間経過するまでは
睡眠薬の服用を控えるのが安全です。

◆解説

 爪白癬のパルス療法とは、イトラコナゾール1回200mgを1日2回食後に1週間経口投与した後、3週間休薬することを3回繰り返す治療法のことである。

 これまで、爪白癬に対する経口抗真菌剤による治療では、多くの場合、半年間毎日服用する必要があったため、長期服用に伴う服薬コンプライアンス低下や経済的負担が問題になっていた。一方、パルス療法では、集中して薬を飲んで一定の休薬期間を置くため、コンプライアンスの向上や副作用の軽減が期待できる。連日投与に比べて1カ月間の総投与量を減らせるため、患者の経済的負担も軽減できる。既に海外では、このパルス療法が55カ国以上で承認されており、爪白癬に対する一般的治療になっている。わが国においても2004年2月、冒頭の用法・用量によるパルス療法が保険適用された。

 ただし、イトラコナゾールはCYP3A4を特異的に阻害するため、このパルス療法の実施に当たっては、CYP3A4により代謝される薬物との併用に十分注意する必要がある。トリアゾラムハルシオン)も主にCYP3A4で代謝されるため、添付文書上、イトラコナゾールとの併用は禁忌となっている。実際、両者の併用によりトリアゾラムのAUCが約27倍、最高血中濃度(Cmax)が約3倍に増加したと報告されている。

 さて、問題は、イトラコナゾール服用終了後3日経過した休薬期間においても、トリアゾラム代謝が影響を受けるか否かである。

 健康成人に、イトラコナゾール1回200mgを1日2回、15日間反復経口投与したときの活性代謝物ヒドロキシイトラコナゾールのトラフ時(次回投与直前)の血中濃度は徐々に上昇し、投与12日目にほぼ定常状態に達し、投与終了後1週間は治療濃度域にあった。また、外国人のデータでは、イトラコナゾール200mgを単回投与した24時間後にトリアゾラム0.25mgを投与しても、トリアゾラム血中濃度は3.8倍上昇した。

 イトラコナゾール200mgを1日2回1週間服用した後の休薬期間中におけるトリアゾラム代謝への影響を直接調べた報告はないが、Sさんの場合、ヒドロキシイトラコナゾールの血中濃度はまだ治療濃度域にあると考えられ、トリアゾラムを服用した場合、その代謝が阻害される可能性が高い。したがって、詳細なデータが十分にない現状では、休薬期間を含めて、トリアゾラムを服用しないよう伝えるのが妥当だと考えられる。

 イトラコナゾールとの併用が禁忌となっているそのほかの薬剤として、シンバスタチン(商品名:リポバスほか)、アゼルニジピン(商品名:カルブロック)、バルデナフィル(商品名:レビトラ)などがある。いずれの薬剤も、皮膚科以外から処方されることが多いため、イトラコナゾールを処方された患者に対しては、他科からの処方薬の内容を必ず確認するよう心がけたい。