メトホルミン

ビグアナイド系薬の作用と注意点
笹嶋勝「クスリの鉄則」

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/tessoku/201209/526793.html


◆歴史
中世ヨーロッパでフレンチライラックマメ科)に糖尿病症状を緩和する成分
(グアニジン)があることが分かり、それを2つ結合させて
ビグアナイド系薬の基礎が作られました。


1970年代にビグアナイド系薬の1つであるフェンホルミンにおいて
致死的な乳酸アシドーシスが急増して問題となり、世界的に使用が禁止されました。
その影響で類薬のメトホルミンにも制限が多く加えられました。
このため、ビグアナイド系薬はあまり使用されていない時期がありましたが
近年、その優れた作用が見直され、現在では多くの国で
糖尿病治療における第一選択薬として位置付けられています。


◆糖尿病に対する作用
肝臓における糖新生を減少させることが主作用と考えられていますが
骨格筋への糖の取り込みを促進する作用も有するとの報告もあります。
糖脂質代謝をコントロールする調節因子であるAMPK(AMP-activated protein kinase)
を活性化するという作用が複雑な経路を経て、インスリン抵抗性改善に働くとされます。


最大の特徴は、インスリン分泌による血糖降下作用でなく
インスリン抵抗性を改善することにより血糖を下げるということです。


◆適応症以外の作用
○ 脂肪肝改善作用
これもAMPKを活性化することにより、複雑なメカニズムを経て
脂肪酸合成抑制、VLDL産生抑制、肝臓への脂肪の蓄積を防止します。


○ 体重増加抑制作用
胃から分泌される摂食亢進ホルモンのグレリン
中枢性の食欲抑制に働くGLP-1に影響を与えるといわれています。
グレリンの分泌を低下させるほか、DPP-4の活性を抑制してGLP-1の血中濃度を上昇させます。
これにより摂食が抑制されると考えられています。
また、メトホルミンが直接視床下部に作用するのではないかとする説もあります。
メタボリックシンドロームの患者に用いられることもあります。
これらの場合、消化器系の副作用も期待して、あえて食前に処方されることもあります。


○ PCOS(多嚢胞性卵巣)への作用
第一選択はクロミフェンクエン酸塩ですが、クロミフェンを使用しても効果がない場合
など、メトホルミンを併用して投与することがあります。
メトホルミンは妊娠するまで連日投与です。
併用により効果が上がったという報告が、多々あります。
国内では750mgまでで処方されることが多いですが、海外では2000mgくらいまで使用します。
日本産科婦人科学会ガイドラインでは、肥満や耐糖能異常の人
インスリン抵抗性の人などが投与の対象です。


○ 発癌抑制作用
肝癌、膵癌、大腸癌、乳癌などは、メトホルミン投与により
発症予防か死亡率低下が報告されています。
一方で、これらの報告は後向き研究であったり動物実験レベルなので
今後、より大規模な疫学研究の実施が待たれます。


◆副作用や投薬時の注意点
○ 乳酸アシドーシス
以前存在したフェンホルミンによる乳酸アシドーシスの発症頻度は
年間で10万人あたり30〜80人程度だったと報告されています。
メトホルミンでは1〜7人と大幅に少ない上
(米国の調査では2250mgの使用で10万人あたり3.2人と報告されています)
腎障害のある患者など禁忌患者への投与例がほとんどです。
まずは、腎障害の有無を確認して投薬するということと
頻度は低くても重篤な副作用なので
初期症状を十分把握して患者からの相談に応えることが重要だと考えます。
軽度で頻度の高い消化器症状と重大な副作用の初期症状とを区別しにくいのは
事実ですが、明らかに異常を感じるくらいの程度だといわれています。


以下のウェブサイトを参照してください。
・ビグアナイド製剤適正使用に関するRecomendation(日本糖尿病学会
  http://www.jds.or.jp/jds_or_jp0/uploads/photos/830.pdf
・メトグルコ錠250mg 適正使用のお願い(大日本住友製薬
  http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201112_6.pdf


○ 消化器症状
吐き気や下痢などの乳酸アシドーシスの初期症状と
類似の消化器症状が高頻度で起きてきます。
少量から漸増することで、緩和されるといわれています。


○ ヨード造影剤
ヨード造影剤を使用する前後48時間は
メトホルミンを中止しなければならないとされています。
一過性の腎障害が起きた場合に、乳酸アシドーシスを起こすリスクがあるためです。
なので、緊急カテーテル検査を実施する可能性のある
循環器疾患がある患者などへの投与は難しくなります。
ただし海外では、もともと腎障害がなければ
メトホルミンを中止する必要はないとされています。
少なくとも薬局薬剤師は、この点はあまり気にしなくていいかもしれません。


◆調剤時の注意点
○ 用法の注意
なぜメトグルコは「食直前または食後」の用法であり
それ以外のメトホルミン製剤は「食後」に用法が限定されているかについて解説します。
1つの理由としては、空腹時の方が食後よりもCmax、AUCが上昇するという
食事の影響を受けるという点ですが、海外で食事とともに服用すると設定された時には
それ以外に副作用の消化器症状の頻度が少ないからということが理由とされています。


○ 一包化時調剤の注意
オルメサルタン含有製剤(オルメテック、レザルタス配合錠LD/HD)と
同時に一包化包装すると、メトホルミンが着色するので同一包装にしないこと
とされています。一包化するとメトホルミンがピンク色になってしまいます。