掌蹠膿疱症

掌蹠膿疱症患者(しょうせきのうほうしょう)に処方された経口剤
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変


◆Question

50歳女性
手のひらにブツブツができて赤くなってきたので
皮膚科に行ったのですが、掌蹠膿疱症と診断されました。
「塗り薬と抗生物質を出しておきます」と言われたのですが
抗生物質ということは、手のひらに細菌がいるということでしょうか。
家族にうつさないように、タオルなどは分けた方がよいですか。
それから、「次の受診までに耳鼻科と歯科に行くように」ということで
紹介状をもらったのですが、なぜ手の病気で耳鼻科に行く必要があるのでしょうか。


処方せん
アンテベート軟膏 5g×4本
 1日2回 患部へ塗布
ケラチナミンコーワ軟膏 50g
 1日2回 患部へ塗布
ミノマイシン錠100mg 2錠
 1日2回 朝・夕食後服用 14日分

◆服薬指導

掌蹠膿疱症は、原因がわかっていない病気なのですが
手のひらにできるブツブツを調べても、細菌やウイルスなどは見つかりません。
ですから、タオルなどを一緒に使っても、ご家族にうつる可能性はありません。
では、なぜ抗生物質が処方されているのかと言いますと
このミノマイシンという抗生物質には、菌を殺す作用以外に
掌蹠膿疱症のブツブツの中に起きている炎症を抑える作用があるからです。
具体的には、白血球の働きを正常化して炎症を抑えると考えられています。
耳鼻咽喉科と歯科に行くことに関してですが
掌蹠膿疱症の患者さんでは、扁桃腺が腫れていたり
虫歯や歯周病が起こっている場合が多いことがわかっています。
中には、これらの病気を治療すると、掌蹠膿疱症がすっきり治ってしまう場合もあります。
ですので、先生は耳鼻咽喉科と歯科を受診するように指示されたのだと思います。

◆解説

掌蹠膿疱症は、主として手掌(しゅしょう=手のひら)や足蹠(そくせき=足の裏)に米粒大の水疱や膿疱が生じ、軽快と増悪を繰り返しながら慢性に経過する難治性の皮膚疾患である。患者は若干女性に多く、40〜50歳代に発症のピークがある。

 同症による水疱や膿疱は無菌性であり、接触感染の心配はない。約半数の患者がかゆみを訴え、患部は紅斑や鱗屑(りんせつ=剥がれた角質が皮膚表面に付着したもの)を伴う。手掌では小指と母指の付け根の部分に、足蹠では土踏まずの部分に皮疹が好発する。

 発症メカニズムは不明であるが、扁桃炎、副鼻腔炎、中耳炎、齲歯(うし=虫歯)、歯肉炎などを合併する患者が多いことが知られており、何らかの細菌アレルギーが関与しているのではないかと推測されている。実際、扁桃を手術的に除去したり、歯科治療を行うことで、掌蹠膿疱症が劇的に改善したという症例が報告されている。患者が、耳鼻咽喉科および歯科の受診を指示されたのは、これら疾患の診断・治療を行うためだと推測される。

 一方、薬物療法では、ステロイド外用剤による外用療法が中心である。外用剤ではほかに、掌蹠膿疱症が乾癬の類縁疾患であることから、乾癬治療に使用されるボンアルファ軟膏(活性型ビタミンD3外用剤)が使用される。また、皮膚の角化症状が強い場合には、尿素軟膏が併用される。

 経口剤は、重症例には経口ステロイド剤が使用されるが、それ以外は確実な効果が得られる薬剤はなく、主に抗炎症作用を期待して様々な薬剤が試みられている。具体的には、コルヒチン、チガソン、サラゾピリン、各種抗アレルギー剤などである。

 患者に処方されたテトラサイクリン系抗生物質も、抗炎症作用を期待して使用される。同症の膿疱には白血球が集合し、その機能に異常が認められることが明らかになっているが、ミノマイシンをはじめとするテトラサイクリン系抗生物質は、白血球の走化性を抑制したり、白血球由来の活性酸素の産生を抑制することで抗炎症作用を示すからである。また同剤は、扁桃炎等の起炎菌に対する抗菌作用も期待できる。抗菌作用が主目的の場合は、ペニシリン抗生物質が使用されることもある。

 さらに、掌蹠膿疱症患者ではビオチンの血中濃度が低いことから、ビオチン製剤が使用されることがある。また機序は不明だが、経口抗真菌剤のイトリゾールが有効だったとする報告もある。