明和の大津波

沖縄地方でM8級 津波痕跡から浮上
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120618/dst12061808290004-n1.htm



鹿児島沖から沖縄地方に連なる南西諸島沿いの海溝で、マグニチュード8級の
巨大地震が繰り返し起きている可能性が最近の研究で分かってきた。
国が大地震を想定していない「空白域」だが
津波の痕跡などの調査で過去の活動が明らかになりつつある。
想定外だった東日本大震災の教訓を生かそうと、研究者は調査の強化を訴えている。

乏しい歴史記

南西諸島の南東沖には、水深7千メートル級の南西諸島海溝が延びている。
東海・東南海・南海地震が起きる南海トラフ(浅い海溝)の延長線上に位置し
長さは台湾までの1千キロ以上に及ぶ。


琉球海溝とも呼ばれるこの場所では
フィリピン海プレート(岩板)が陸側プレートの下に沈み込む。
その仕組みは南海トラフと基本的に同じにもかかわらず、巨大地震は起きないとされてきた。


理由の一つは歴史記録の乏しさだ。
同諸島では17世紀以前の自然災害の記録がほとんどない。
琉球王国の都が置かれた首里は、海溝の反対側に位置するため津波の被害記録が残りにくい。
しかも、古文書の多くは明治時代に東京へ運ばれ、関東大震災で焼失。
残りも1945年の沖縄戦で大半が失われた。
こうした事情から、政府の地震調査委員会も
「大地震が繰り返し発生する場所が特定できない」として
一部を除いて発生確率を「不明」としている。


また、地震学的にもプレート境界はほとんど固着せず
巨大地震を起こすひずみは蓄積されにくいと考えられてきた。
東シナ海側の海底活動で南西諸島全体が海溝側へ移動していることが根拠とされ
海溝付近は地震を起こさず滑っていると解釈されていた。

巨大岩を運ぶ

ところが東日本大震災の発生後、津波の痕跡などを調査した研究チームから
同海溝で過去に巨大地震が繰り返し起きた可能性が相次いで報告されている。


東大などは石垣島宮古島などに打ち上げられた津波石の年代を調査。
「明和の大津波」が襲った1771年や1625年のほか
1400年頃や1100年頃など、過去2500年間に
約150〜400年間隔で津波が押し寄せたことを突き止めた。


津波石はいずれも海底から運ばれたハマサンゴで
直径1メートル以上と比較的大きいことから
プレート境界型地震が起きた可能性は十分にある。宮古島の西の下地島には
明和の大津波で運ばれたとされる約13メートルもの巨岩がある。
M8級の巨大地震が起きたと考えると説明可能なサイズだ。


大阪市立大などは沖縄本島で海底の堆積物を調査。
北西部の羽地内海などで津波の襲来を示唆する砂層が
数百年間隔で堆積しているのを見つけた。
M8・5のプレート境界型が襲った可能性があり、次の発生が迫っている恐れもあるという。


さらに、鹿児島大は
911年に喜界島近海で起きた同諸島最大級の地震(M8・0)について
当時の地震波データを検証して震源を分析。
従来はフィリピン海プレート内部の地震とされていたが
同海溝北部のプレート境界型とみられることが新たに判明した。
後藤和彦准教授は「この場所でプレート境界が動くのなら
海溝の別の場所でも同じような地震が起きる可能性がある」と懸念する。

手薄な観測網

プレートの動きを知る有力な手段は地殻変動の海底観測だ。
琉球大などが沖縄本島の南東沖約100キロの海溝付近を調査した結果
プレートの固着率はほぼ100%と判明。
陸上の観測に基づく従来の5%をはるかに上回り
南海トラフ並みにひずみが蓄積している可能性が浮上した。


しかし、海底の観測点は現在1カ所だけで、予算不足のため増設は困難。
南海トラフで海底観測網を整備した海上保安庁も、南西諸島は手付かずだ。
大都市圏と比べて人口が少ないことが調査・研究の遅れの背景にあるとみられ
琉球大の中村衛准教授は「南海トラフなどと比べて南西諸島海溝への関心は低く
危機感がある」と訴える。


一方、同海溝の地震津波は近年、台湾で警戒が強まっている。
南西諸島は、2004年のスマトラ島沖地震(M9・1)で被災した島々と
地殻の状態が似ているとの研究が報告されているという。


台湾中央研究院で同海溝を研究している安藤雅孝名古屋大名誉教授は
「この海溝は台湾にとっても大きな問題。日台の連携を深める必要がある」と話す。