アスピリン喘息

アスピリン喘息の原因となる解熱鎮痛剤とは
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

日経DIクイズ 服薬指導・実践篇 6

日経DIクイズ 服薬指導・実践篇 6


◆Question

72歳の男の娘
膝の痛みで、痛み止めを処方されました。
ですが、父は喘息持ちです。最近は落ち着いているのですが
痛み止めのお薬で喘息がひどくなることがあると聞いたことがあります。
以前、父はお酒を飲み過ぎた時に発作が起きたこともあるので心配です。
先生は「このお薬は問題ありません」と言っていたのですが、本当に大丈夫でしょうか。


《処方せん》
カロナール錠200mg 2錠
 1日2回 朝夕食後服用 30日分
MS温シップ 10パック
 1日1回 左膝に貼付

◆服薬指導

ある種の痛み止めを飲むと、喘息の患者さんの1割ほどで症状が悪化したり
喘息の発作が起こることがわかっています。
それから、お父様も経験されているように
お酒を飲むと喘息の症状が悪化することがあります。
こちらは喘息患者さんの6割ほどで起こります。

ですが、痛み止めで起こる喘息の悪化と、お酒で起こる喘息の悪化は
これまでの研究で、起こるメカニズムが違うことがわかっています。

ですから、お父様の場合も、お酒の件があるからといって
痛み止めを飲んだ時に喘息が起こりやすいということはないと考えられます。

それに加えて、お父様に処方されているカロナールというお薬は
喘息への影響が少なく、比較的安全とされていますので
先生がおっしゃるようにさほど心配は要らないと思います。

ですが、万が一に備えて、注意は必要です。
喘息の悪化が起こるとすれば、お薬を飲んで数分から数時間の間ですから
特に最初の何回かは、息苦しさなどが起きていないかどうかを
お父様に確認しながら、様子をみるようにしてみてください。

◆解説

 アスピリン喘息は、アスピリンに限らず、種々のNSAIDsによって症状の悪化や発作誘発が起こる喘息の一病型である。経口剤や注射剤だけでなく、外用剤や貼付剤などでも報告があり、NSAIDsの使用後、数分から数時間で症状が出現する。成人喘息の10%程度を占めると推計されている。

 アスピリン喘息には、NSAIDsのシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用が関与していると考えられている。COXは、アラキドン酸からプロスタグランジン(PG)が合成される過程に作用する酵素であり、NSAIDsはこのCOXを阻害することで炎症性のPG産生を抑制し、抗炎症作用や鎮痛作用を発揮する。しかし一方で、気道に恒常的に存在し気管支平滑筋を弛緩させる作用のあるプロスタグランジンE2(PGE2)も、NSAIDsによって産生が抑制されるため、喘息症状の悪化が起こりやすくなると推測されている。

 またPGE2には、気管支収縮作用を持つロイコトリエンの産生を抑制する作用があるため、NSAIDsによってPGE2の産生が抑制されることで、ロイコトリエンの作用が相対的に増強されることもわかっている。

 アスピリン喘息患者では、COX阻害作用のあるNSAIDsの使用を回避することが最も重要である。具体的には、アスピリンインドメタシン、ジクロフェナクなど、COX阻害作用が強い「酸性NSAIDs」の使用は絶対禁忌である。これに対して、塩酸チアラミドやエピリゾールなどの「塩基性NSAIDs」はCOX阻害作用が弱く、喘息症状を悪化させる可能性が低いことから、アスピリン喘息患者にもしばしば使用される。しかし添付文書上は、酸性NSAIDsと同様、大半の塩基性NSAIDsでアスピリン喘息患者への使用が禁忌となっているのが現状である。

 同様に、アセトアミノフェンも、添付文書上では禁忌だが、COX阻害作用が弱いことから、アスピリン喘息患者にも使用されることがある。ただし、1000mgを超えるような高用量では、喘息発作を誘発したという報告もあるので、注意は必要である。

 一方、喘息の一病型として、飲酒によって喘息発作が誘発される「アルコール誘発性喘息」が知られている。これは、アルコールの代謝物であるアセトアルデヒド血中濃度が高まることで、肥満細胞などからのヒスタミン分泌が亢進し、気道収縮が起こるためと考えられている。

 特に日本人では、遺伝的にアセトアルデヒド代謝酵素の活性が低い人が多いため頻度が高く、喘息患者の3分の2で飲酒による症状悪化が認められたとする報告もある。

 娘は父親にアルコール誘発性喘息の既往があることから、鎮痛剤による喘息症状の悪化を心配しているが、上記のように、両者は発症機序が異なるため、直接的な関連性はないものと推測される。処方されたアセトアミノフェンは比較的安全性が高いことを併せて伝え、安心して服用するように指導したい。