プリミドン

本態性振戦に処方された抗てんかん

日経DIクイズ 服薬指導・実践篇7

日経DIクイズ 服薬指導・実践篇7


http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

47歳女性
少し前から手がふるえて字が書きづらくなったので
神経内科で診てもらったら、「本態性振戦」と言われました。
先生は「普通の薬は使えないから、代わりの薬を出します」
とおっしゃっていましたが、この薬で本当に大丈夫なのでしょうか。


処方せん
プリミドン錠250mg 1錠
1日1回 朝食後服用 7日分


※呼吸器内科からはテオドール、メプチンが処方されている。

◆服薬指導

本態性振戦に普通使われるのはアルマールというお薬なのですが
この薬は喘息を悪化させる危険性があるので、
先生が「普通の薬は使えない」とおっしゃったのだと思います。
それで先生はプリミドンという薬を出されたわけですが
このお薬は、ほかの国では本態性振戦にとてもよく使われていて
アルマールなどと同じくらい効果があるともいわれています。
日本でも、本態性振戦の患者さんに処方されることが珍しいわけではありませんので
安心してお飲みください。

◆解説

 本態性振戦の症状はふるえだけである。「良性振戦」ともいわれるように、生命にかかわる疾患ではない。症状は、治療の必要がないごく軽度なものから、手がふるえて文字がきちんと書けない、手に持ったコップの水をこぼす、声がふるえてうまく話せない――など日常生活に支障を来すものまで様々である。成人期の初期に好発し、症状は一般に加齢とともに顕著となる。原因は不明だが、βアドレナリン系が関与していると考えられている。
 本態性振戦によるふるえは、安静時にはほとんどみられず、姿勢時・動作時に現れるのが特徴である。ふるえ方は通常速く、細かい。出現部位は上肢が最も多いが、時に下肢、頭部、声、下顎などにも現れる。適度な飲酒によってふるえが改善することが多い。家族に多発するタイプの本態性振戦があり、特に「家族性振戦」と呼ばれる。
 臨床上は、やはり振戦を来すパーキンソン病との鑑別が重要になる。パーキンソン病は大脳黒質神経細胞変性が原因であり、その振戦は安静時にみられ、丸薬を丸めるような遅いふるえであることが多い。またパーキンソン病では、振戦のほかに、固縮(手足がこわばる)、無動(動作が鈍くなる)、無表情などの症状がみられる。
 本態性振戦の治療にはβ遮断剤が最も有効とされ、米国などでは塩酸プロプラノロールなどが繁用されている。だが日本で適応を持つのは、塩酸アロチノロール(商品名:アルマールほか)だけである。また、β遮断剤は気管支を収縮させ、喘息症状を誘発、悪化させる恐れがあるため、気管支喘息、気管支痙攣の患者には禁忌である。
 一方、プリミドンは、てんかんによる痙攣発作を予防する抗てんかん剤だが、諸外国では本態性振戦に広く用いられている。プロプラノロールと同等の有効性を認める文献もみられる。国内でも、本態性振戦患者13例にプリミドン100〜1000mg/日(平均400mg/日)を経口投与したところ、13例中10例(76.9%)で有効だったとする報告がある。
 このため、(1)β遮断剤単独では効果が不十分な症例(2)徐脈や低血圧でβ遮断剤の増量が困難な症例(3)β遮断剤が禁忌ないし無効な症例――などに、わが国でもプリミドンがしばしば用いられる。β遮断剤との併用例も少なくない。