シックデイ

経口血糖降下剤服用中のシックデイ対策

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

56歳男性の妻が次のような質問をしました。
主人が風邪をひいて、熱が 38℃も出てしまい
食欲もなく、下痢もしています。主治医に診てもらったら
「シックデイの心配がありますから注意してください。
糖尿病のお薬は、落ち着くまでダオニールだけにしましょう」と言われました。
どうしてでしょうか。
また、先生には食べやすい物をきちんと摂るように言われました。
どういうものがいいですか。


フロモックス錠100mg 3錠  1日3回毎食後 7日分
ナウゼリン坐剤30 2個
インダシン坐剤50 1個   頓用 7日分
ダオニール2.5mg 1錠   1日1回朝食後 7日分
※前回まではダオニールのほか、メルビン、ベイスンが処方されていた。

◆服薬指導

糖尿病の治療中にかぜを引いたり
ほかの病気で体にストレスがかかったときをシックデイと言います。
シックデイでは血糖値が上がりやすく、きちんとお薬を飲むことが大切です。


メルビンは、発汗・下痢などで脱水状態のときに服用すると
血中に乳酸が蓄積され過ぎるという副作用が起こる可能性があるので
シックデイの時は中止されるのが普通です。


ベイスンは胃腸が弱っているときに服用すると、栄養の吸収に影響を及ぼすことがあります。
それで先生はメルビンとベイスンを中止されたと考えられます。


シックデイでは、お薬を飲むことのほかにも食事や水分を十分に摂ることが大変重要です。
おかゆ、煮込みうどん、半熟卵、プリンなど消化がよく高栄養のものを食べてください。
また、脱水予防のために1日1L以上の水分を摂る必要があります。
スープ、おみそ汁、スポーツドリンクなどが適しています。
食事、水分ともに1回分は少なくてもこまめに摂るようにしてください。

◆解説

シックデイでは発熱・感染、外傷などのストレスにより
グルカゴン、成長ホルモン、エピネフリンといったインスリン拮抗ホルモンの分泌が増加する。
これにより肝での糖新生が促進され糖利用が減少し、インスリンの分泌が抑制される。
さらに炎症性サイトカインの増加もインスリン抵抗性の増大やインスリン分泌の抑制を引き起こし
結果として、食事摂取量が減少していても高血糖となりやすい。
しかも脂肪分解の亢進状態にあり、ケトン体が血中に蓄積されてケトーシスを起こすと
さらに食欲不振や消化器症状が悪化する。


これらの糖代謝の変化に加え、発熱による発汗、下痢・嘔吐や食事摂取量の減少から
脱水を来すと一層高血糖は悪化し、高血糖性高浸透圧昏睡を発症しやすくなる。
逆に、糖代謝の変化が軽微な状態で食事摂取量が低下した場合は
通常量の薬剤を服薬し続けることにより重度の低血糖を起こすこともある。


よってシックデイ中は、頻回の血糖測定で病状を把握したり
日ごろは経口剤で治療していても一時的にインスリン療法に切り替えるなど
管理や治療が強化される。そして
①経口摂取ができない
②シックデイの原因疾患が重篤である
③尿ケトン体が強陽性または著しい高血糖がある――
などの場合には入院加療が必要となる。


食事摂取量が減少すると服薬を全く中止してしまう患者がいるが
シックデイでは高血糖となりやすい状態にある。
よって食事摂取が可能であれば薬物療法を中断しないことが重要である。
ただし、ビグアナイド剤は一般に、脱水や下痢・嘔吐などがある場合は
乳酸アシドーシスの危険性があるため投与が中止される。

α-グルコシダーゼ阻害剤、インスリン抵抗性改善剤も
消化器症状に影響を与える可能性があるため投与が中止になることが多い。


そのほかシックデイでは、糖質、水分、電解質を十分に摂取することが大切である。
通常の食事摂取が困難である場合
おかゆ、煮込みうどん、半熟卵、プリンなど消化がよく高栄養のものを選ぶ。
1回量が少なくても頻回に摂り、1日全体で150g以上の糖質摂取を目標とする。
また、脱水に陥らないためには1日1L以上の水分摂取が必要である。
スープやみそ汁、スポーツドリンクなどが適している。