ツムラ漢方スクエア 私の漢方診療日誌
大阪大学大学院医学系研究科 漢方医学寄附講座 岸田友紀先生
http://www.tsumura.co.jp/password/magazine/132/rensai.htm
主訴を改善しようとさまざまな処方を試みてもなかなかうまくいかないことがあります。
そんな時は、他の症状に着目して発想の転換を図ると思いがけずに即効することがあります。
今回は、「気虚」に対して胃腸の働きをよくする処方で奏効した例を紹介します。
症例
56歳の女性で、冷え性だという。
「人工関節の手術をしてから、手足が冷えます。
風邪もしょっちゅうひいていて、なかなか治りません」
望診: 色白で小柄・やせ気味。
聞診: 声も勢いも特徴はない。
問診: 寒いと関節は痛み、入浴で楽になる。睡眠・便は異常なし。ストレスはない。
「食欲はどうですか?」
「あまりなくて1日2回です。食べてもずっとお腹にとどまっている感じです」
「今までに関節以外で病気をしたことはありますか?」
「若い頃、神経性食思不振症をしました」
六君子湯7.5gと桂枝加朮附湯7.5gを処方した。
3週後
「びっくりする程温かくなりました。こんな経験は初めてです」
◇まとめ
桂枝加朮附湯は、風邪の代表処方である桂枝湯に
利水の生薬である蒼朮と、温煦鎮痛作用を持つ附子を加えた処方である。
日頃から風邪を引きやすいことをヒントに、体表面を温める桂枝湯ベースの処方をした。
この人は、若い頃、神経性食思不振症を患い、今でも食に対して消極的である。
いわゆる「気虚」に該当するが、そんなことを考えずとも
ストレスがそれほどないのなら、物理的に胃の動きをよくするような漢方薬を選べばいい。
六君子湯は胃貯留機能や排出能を改善することが薬理的に明らかであり
まさにこうした症例にはうってつけである。
エネルギー、東洋医学で言うところの「気」は
簡単に言えば「親から」「空気から」「食べ物から」供給される。
従って、胃腸の調子が悪ければエネルギーは全身をかけめぐらない、とも考えることができる。
「あたりそうな」処方内容なのに、「あたらない」時は、胃腸を建て直すよう
発想を転換させると、「あたらない」漢方薬がいきなり効き出すケースは意外に少なくない。