歯肉出血 × フェニトイン

歯肉からの出血を訴えるてんかん患者


http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

てんかん治療で通院している男性
最近、歯磨きの時に出血することが多くなったので、先生に相談したら
「ヒダントールの副作用かもしれないが、今の薬はやめられないので
 ビタミンCを一緒に飲んでしばらく様子をみましょう」と言われました。
ですが、出血すると、さらに歯茎の状態が悪くなってしまうのではないかと心配です。
副作用がよくなって、出血がなくなるまで、しばらく歯を強く磨かない方がよいでしょうか。

◆服薬指導

お薬の副作用だとしても、しっかりとブラッシングをして歯垢を取り除けば
歯茎の症状は良くなってくることがわかっています。
ですので、力を入れる必要はありませんが、歯と歯茎の境目の部分を中心に
これまで以上に念入りに歯を 磨くようにしてみてください。

◆解説

副作用として歯肉増殖(歯肉肥厚、歯肉肥大、歯肉腫脹)が多く報告されている薬剤には
フェニトイン、シクロスポリン、各種のカルシウム拮抗剤がある。


中でも発現頻度が高く、古くからその存在が知られていたのがフェニトインである。
同剤が配合されているヒダントールの添付文書には
歯肉増殖の出現頻度は不明と書かれているが
これまでの臨床研究では50%前後だったとする報告が多い。
また、シクロスポリンでは10〜20%程度(添付文書では0.1〜5%未満)
カルシウム拮抗剤は薬剤によって異なるが、ニフェジピン(商品名:アダラートほか)
では6.3%、21%、25%、43.6%(添付文書では0.1%未満)などの報告がある。


これらの薬剤は、分子構造も薬理作用も全く異なるが
結果として出現する歯肉増殖は似通った臨床像を示す。
歯間乳頭部を中心に増殖する歯肉が、歯牙を覆うように幅と厚さを増していく。
通常、増殖した歯肉はピンク色で硬く、非炎症性だが
中高年者では炎症が併発し浮腫や発赤を認めることも多い。
歯肉増殖により歯周ポケットが形成されるため、出血しやすくなり
著しい口臭が出現することもある。
歯肉増殖が認められた場合には、休薬が原則となる。


発症メカニズムについては不明であるが、病理学的には
増殖した歯肉の結合組織において、線維芽細胞の増殖とコラーゲン量の増加が確認されている。
また、歯肉由来の線維芽細胞を用いたin vitroの実験では
フェニトイン、ニフェジピン、シクロスポリンを添加すると、線維芽細胞が増殖し
コラーゲン産生が亢進されるとともに、その分解酵素であるコラゲナーゼの活性が
低下することが報告されている。これらのことから
薬剤性の歯肉増殖には結合組織のコラーゲンが関与していると考えられている。


一方、歯肉増殖例では、薬剤投与前から歯周疾患が存在するという指摘がある。
また、無歯顎や歯のない部位には歯肉増殖が見られない。
このことから、薬剤性の歯肉増殖の予防や治療に、プラーク歯垢)の除去が有効と考えられ
実際、ブラッシング指導や歯石の除去などのプラークコントロールにより
カルシウム拮抗剤の服用を継続しながら歯肉増殖を軽減できたとする報告もある。