Lancet

2型糖尿病患者のHbA1c値と総死亡の関係:
U字型を示し,HbA1c値が高くても低くても総死亡と心臓イベントは増加する
http://www.takedamed.com/hpdr/rootDir/useful/journal/diabetes/2010_06_075.jsp

原著
Survival as a function of HbA1c in people with type 2 diabetes:
a retrospective cohort study.
2型糖尿病患者のHbA1c値との関係でみた生存率:後ろ向きコホート研究)
Currie CJ, Peters JR, Tynan A, Evans M, Heine RJ, Bracco OL, Zagar T, Poole CD.
Lancet. 2010;375(9713):481-489.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20110121/


HbA1cと総死亡の関係を検討した後ろ向きコホート研究である。
1986年11月から2008年11月までのUK General Practice Research Databaseより
50歳以上の2型糖尿病患者の2つのコホート
(経口血糖降下薬を用いた経口単剤療法から併用療法まで治療を強化した27,965例と
インスリンを含む治療に変更した20,005例)について検討し、総死亡が主要評価項目とされた。


コホート全体において,補正後の総死亡ハザード比は、HbA1cの10分位群で
ハザード比が最も低い群(中央値HbA1c 7.5%,IQR 7.5〜7.6%)と比較して,
最低10分位(中央値6.4%,IQR 6.1〜6.6)で1.52(95% CI 1.32〜1.76)
最高10分位(中央値10.5%,IQR 10.1〜11.2%)で1.79(95% CI 1.56〜2.06)であった。
この結果は,U字型を示していた。
また,総死亡のハザード比は,経口薬群に対して,インスリン群で1.49であった。


経口薬コホートインスリンコホート,両群を合わせたコホートのすべてにおいて
HbA1c 7.5%程度が総死亡は最も少なく,それよりHbA1cが高くても低くても総死亡が多い。
高血糖により引き起こされた糖尿病合併症による死亡を念頭に置くのであれば
HbA1cが高いと総死亡が多いのは当然であるが,低くても総死亡が多いのは理解できないので
血糖値が治療により低くなりすぎたことにより引き起こされ
死亡へとつながりうる病態を考えざるを得ない。


インスリンコホートHbA1cが最も低い10分位での総死亡のハザード比が
最も高い10分位でのそれと同程度であるという結果は驚くべきことである。
HbA1cが低いところでの総死亡の増加の原因について検討し
増加させないための対策を追求していくことが今後必要であると考えられる。


低血糖を起こさずにHbA1cを可能な限り下げる」というポリシーで糖尿病治療を行ってきたが
「どこまで下げればよいのか」という議論はホットトピックになるであろう。
今後,インクレチン関連薬,持続血糖測定器(CGMS)
さらにCGMSとCSIIを用いたクローズドループの人工膵臓,膵島の再生医療などが
「血糖値の下げすぎを避けながら,血糖値を下げる」という難題を
解決するための強力なツールになることを期待する。
編者:矢藤繁・山田信博