バルトレックス × 透析

笹嶋勝「クスリの鉄則」
バルトレックス:透析患者では投与量を「12分の1」に
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/tessoku/201004/514931.html


帯状疱疹や水痘などに適応を持つ抗ウイルス剤のバラシクロビル(商品名:バルトレックス)は
単にアシクロビル(ゾビラックスほか)のプロドラッグというだけでなく
経口吸収性が高められ、バイオアベイラビリティが大幅に向上された薬剤です。


このバラシクロビルで注意が必要なのは、蓄積による精神神経系の中毒症状です。
特に、人工透析患者を含む腎機能低下者では、健常人と同じ量を投与しただけで
高頻度で中毒症状を引き起こしますから
薬局での投薬時には腎機能を必ず確認する必要があります。


実際、私は病院勤務時代、帯状疱疹を発症した透析患者に
健常人と同用量の1日3000mgが投与され、意識混濁を起こして
救急搬送されてきた事例を経験しています。


またバラシクロビルは、2006年までは帯状疱疹治療に使用する際の
透析患者への投与量は「1日1000mg」とされていましたが
その量で処方されていたにもかかわらず
中枢神経系の副作用を発症した透析患者を2例、経験しています。
これらの患者では、アシクロビルの血中濃度は明らかに高かったため
当時、製薬会社に対して「透析患者には1日1000mgでも多い」と連絡をした記憶があります。





その後、添付文書は改訂され、透析患者への投与量は引き下げられました。
上に示したのが、添付文書上で腎機能低下者や透析患者の投与量を書いた箇所です。
表だけを見てしまうと、透析患者も「1日最高500mg」と受け取られかねませんが
表の上の説明の文章には、きちんと「1日250mg」と書かれています。
ちなみに「血液透析日には透析後に投与すること」とあるのは
アシクロビルの70%が透析で抜けてしまうからです。


透析患者におけるリスクは
添付文書に書かれたAUCで比較していただくと、わかりやすいかと思います。
1000mgを健常人と透析患者に単回投与した臨床試験では
Cmaxは透析患者が2倍程度ですが、AUCは健常人22.26±5.73μg・hr/mLであるのに対し
透析患者は249.43±105.09μg・hr/mLと10倍以上にもなっています。


こうしたことから当社では、バラシクロビルが初めて処方された場合には
患者に「腎障害があると言われていないか」を必ず確認するように指示しています。
腎障害は、外見からではわからないからです。


この確認により、中毒を防げたと思われる事例があります。
帯状疱疹で1日3000mgが処方された患者が、人工透析を受けていることがわかりました。
減量について処方医に疑義照会をしましたが、医師は
「すでに透析が長く、腎機能が低下することはないから、そのままで」とのことでした。


相談を受けた私は、再度、疑義照会をするように指示しました。
当初、医師はお怒りのご様子だったそうですが
「患者さんの安全確保のためだから」という固い信念で
担当薬剤師は説明を繰り返し、一歩も引き下がりませんでした。
結局、減量していただけたそうですが
のちにバラシクロビルのリスクに関する資料を送ったところ
「勉強になった。減量して良かった」とお礼を言ってくださったそうです
(この時は、改訂前の添付文書に準じて1000mgに減量、有害事象はなし)。


現在の添付文書に従えば、透析患者には、健常人の1日3000mgの処方を250mgにまで
すなわち12分の1にまで減量せねばならないわけです。
それほど、透析患者や腎機能低下者では減量が必要なのです。