冷え × 漢方

婦人の冷えに用いる漢方薬の考え方
あきば伝統医学クリニック院長 秋葉哲生先生
http://www.tsumura.co.jp/password/magazine/109/bestchoice.htm
ID:P20630

加味逍遙散 些細なことが気になり,のぼせて,時に冷えるというご婦人によい
五積散 冷えとのぼせが同時に存在すること(上熱下冷)が本方の特徴である.神経痛や腰痛があれば同時に治療が可能である
四物湯 平素虚弱で,顔色が悪く,皮膚が乾燥してふらついたりするような方の冷え症に適している
温経湯 冷えが主症状なのに,体の乾燥のために,口が渇いたり,手足が火照ったりするという,熱のような症状(虚熱)がみられることがある
苓姜朮甘湯 頻尿傾向のある色白の痩せぎすのご婦人の冷えに適応する.時に冷えの様子は,水中に座っているようと形容されるほどになる



冷えの治療は漢方薬の独壇場といっても過言ではない.

1.加味逍遙散


本方はご婦人の漢方治療をする場合に不可欠の処方であり
江戸時代の百々漢陰は、女性の病には最も頻用される処方であると述べている.
ただし,本方には蒼朮,当帰,生姜などの温性薬も入っているが
牡丹皮,山梔子などの涼性薬ものぼせ治療の目的で入っており
あまり強力な温性の処方とはなっていないことには注意が必要である.
本方の役目は,ストレスのために気持ちが乱れた結果,自律神経の失調が起こり
手足の血行の不順を来したことで冷えを自覚するような症例に向いている.
顔色は比較的良好で,発作的には顔面紅潮がみられることもある.
腹力は中等度からやや軟だが広く適用可能で,些細なことが気になり
のぼせて時に冷えるというご婦人によい.

2.五積散


五積散は神経痛や腰痛から胃腸炎まで広い応用が可能な漢方薬である.
本方の重要な手掛かりとして,冷えとのぼせが同時に存在すること
(上熱下冷)が知られており,冷えは本方の保険診療上の適応症ともなっている.
その効き目は,かの浅田宗伯も本方はその名声に恥じない働きを有するので
俗人も知るからといって漢方家は決して侮ってはいけないと述べているほどである.
本方は腹力中等度前後で,時に腹部膨満のみられる冷え症に適応する.
本方で興味深いのは分娩時の産道の拡張不良に対して用いられたことで
歴史的にもご婦人と縁の深い漢方薬であることがうかがえるであろう.

3.四物湯


四物湯は血の働きを補う薬として広く用いられている.
単独で用いられることもあるが,多くの有名な処方の構成薬として含まれている.
その働きは血を増やして貧血を改善し,免疫系を活性化して健康を増進することである.
顔色が悪く,皮膚が乾燥してふらついたりするような方の冷え症に特にふさわしい.
平素虚弱な方で,腹力も中等度前後で,幅広い症例に適している.

4.温経湯


温経湯は生理不順や不妊症に用いられるので有名であるが
冷え症にも適用を有している.本方の特徴は麦門冬や人参,阿膠のような
潤す生薬が入っていることである.本方で注意すべきは,冷えが主症状なのに
体の乾燥のために,口が渇いたり,手足が火照ったりするという
熱のような症状(虚熱)がみられることである.
本方は腹力が軟弱から中等度くらいまでで,血の圧痛を認めるとされている.

5.苓姜朮甘湯 (リョウキョウジュッカントウ)


苓姜朮甘湯は茯苓,乾姜,白朮,甘草の四味からなる処方である.
本方を特徴づけるのは乾姜の存在である.
乾姜は温性薬の中でも特に温める作用のある熱薬と呼ばれる数少ない生薬である.
本方は,その冷える様子を例えて,「水中に坐するがごとし」と出典の条文に
記されている興味深い方剤で,そのような冷えをも改善する効能があるというわけである.
本方は,腹力が軟弱か,あるいは中等度くらいまでの頻尿傾向のある
色白の痩せぎすのご婦人の冷えに適応する漢方薬である.