コレステロール × 甲状腺


http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

職場健診でコレステロール高値を指摘され
病院に通院している女性が薬局を訪れ、次のような質問をしました。


先週の採血の結果、甲状腺のホルモンが少なかったそうで、ホルモン剤を出されました。
もともとコレステロールが高いということで病院にかかったのですが
肝心のコレステロールの薬は出ていないようです。
先生の出し忘れでしょうか。
また、たばこをやめるように言われたのですが、なぜですか。


処方箋

チラーヂンS錠25 1錠
 分1 朝食後 14日分


◆Anser

甲状腺のホルモンが不足していることが原因で、コレステロールが高くなったようですね。
チラーヂンという甲状腺ホルモンのお薬で、不足した甲状腺ホルモンを補ってあげると
コレステロールも正常値に戻ります。
たばこですが、煙に含まれるチオシアネートという化学物質が
甲状腺の機能を悪化させるといわれています。
治療の効果が出にくくなりますので、禁煙してください。

◆解説

甲状腺機能低下症は、高コレステロール血症を来しやすいことが古くから知られている。
これは、甲状腺ホルモンが、主としてリポ蛋白代謝の中心臓器である肝臓に作用し
脂質代謝を調節しているためと考えられている。
甲状腺ホルモンの不足により、LDL受容体の活性が低下し
LDLコレステロールや総コレステロールが上昇するため
約90%の患者が高コレステロール血症を合併する。


このような甲状腺機能低下症による二次性高コレステロール血症は
コレステロール血症全体の12〜15%を占めるが
しばしば原疾患である甲状腺機能低下症に気づかれないまま
脂質低下剤が漫然と投与されることがある。
この場合は甲状腺ホルモンの補充をしない限り、血清コレステロール値は正常化しない。
しかも、スタチンは、甲状腺機能低下症に用いると横紋筋融解症が現れやすいとして
添付文書上慎重投与となっている。


一方、喫煙も甲状腺機能に悪影響を与える。
たばこの煙の成分の一つであるチオシアネートは、抗甲状腺作用を持っており
甲状腺でのヨードの取り込みと甲状腺ホルモンの合成を抑制する。
また、甲状腺機能低下により様々な化学物質や薬剤の代謝機能が低下すると
チオシアネートの影響をより受けやすくなると考えられている。


橋本病の女性患者387人を対象に行われた調査では
喫煙患者の76%が甲状腺機能低下症を合併していたのに対し
非喫煙患者では35%にとどまっていた。
血清チオシアネート値は、甲状腺機能低下症を合併した喫煙患者で最も高かった。
また、原発甲状腺機能低下症において、喫煙者は非喫煙者に比べ
コレステロール値などが高いという報告もある。


これらの結果から、チオシアネートは甲状腺機能低下症の発症や悪化を促進し
脂質代謝にも悪影響を与える可能性が考えられる。