便秘 × 漢方

便秘には治療選択肢が多い漢方を使おう
浅羽宏一先生(高知大学医学部附属病院総合診療部)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/asaba/200905/510720.html&di=1

高齢者の便秘には麻子仁丸が第一選択

高齢者は、西洋医学的にみると弛緩性便秘が多く、漢方では
体が弱って(虚)いて乾燥し(燥)、冷え(寒)を伴っている人が多いと思われます。


高齢者の便秘に対しては、まず麻子仁丸を第一に考えますが
診察してみて乾燥が特に強いと感じたら、潤腸湯に変更します。


腸の冷え(寒)が強いと思われた場合は大建中湯を考えます。
腸も筋肉ですので、寒い日に手がかじかんで動きにくくなるのと同様
腸も冷えれば動きが悪くなるという発想なのか、温める治療を行います。

若年者では痙攣性の便秘もみられる

若年者は体が丈夫(実)で熱がある(熱)人が多いので、大黄甘草湯を第一に考えます。
腸に熱がある場合は、大黄の入った方剤を用いますが、おならが臭い場合は
腸に熱があると考えてよいかと思います。おならの臭いはぜひ問診で確かめてください。


若年者で便が硬い場合は、大黄甘草湯に芒硝(マグネシウム塩)が追加された
調胃承気湯を、また、お腹にガスがたまり、不安などの精神症状がある場合は
厚朴が入った大承気湯を選択します。


若年者には、痙攣性やストレス性の便秘もみられます。
痙攣性便秘は、腸の平滑筋の緊張が主病態ですので、芍薬甘草湯に
桂枝、生姜などを加えた桂枝加芍薬を第一に考え、おならが臭ければ
(腸に熱があれば)、大黄の入った桂枝加芍薬大黄湯を処方します。


ストレス性便秘の場合は
漢方の抗ストレス薬である柴胡剤の中で、大黄の入っている大柴胡湯を用います。


若い女性は、女性ホルモンの関係で便秘をしがちです。
月経とのかかわりがあるため、桃核承気湯大黄牡丹皮湯といった
末梢循環不全を改善する(お血を治療する:駆お血薬)方剤を処方します。
女性は、初潮の始まるころから便秘が増えます。
一般に、排卵時には便秘がひどくなり、月経時には緩和するとされています。


男性でも、運動や入浴で緩和される腰痛、肩こり、痔など
末梢循環不全(お血)によって起こる症状を伴った便秘の患者さんには
桃核承気湯や大黄牡丹皮湯が有効です。

漢方は生薬を追加して作り上げられた

西洋医学は一般に、生薬を分析して有効成分を抽出し、単一成分の薬として用います。
ここでは、大黄から有効成分センノシドを取り出し、プルゼニドとして臨床に用いています。



漢方では逆に、生薬を組み合わせることによって効果を高め
あるいは副作用を減らすように工夫しています。


大黄に甘草を追加して、副作用の発現を減らした方剤が大黄甘草湯です。
甘草の有効成分はグリチルリチンで、じんましん時に注射するミノファーゲン
(一般名はグリチルリチン酸モノアンモニウム)の有効成分がこれです。


便が硬く、大黄甘草湯で効果不十分な場合に備えて
便を軟らかくするために塩類(芒硝)を加えたものが調胃承気湯です。
これに、血の循環を良くするために桃仁などを加えたものが桃核承気湯と呼ばれます。


このように漢方薬は、長い歴史の中で多くの経験に基づいて
生薬を一つひとつ追加して完成してきたのではないかと推定されます。





【症例】
5年前に大腸癌で手術歴のある痩せ型の78歳男性。
朝から下腹部痛が出現したため、午前10時ころ、当科を受診しました。
手術をしてから便秘になり、便秘薬が徐々に増加し
最近ではセンノシド(プルゼニド)を8錠服用していました。
昨晩10時ころ、プルゼニド8錠を服用して就寝したところ
明け方4時ころから、急に下腹部痛が出現しました。


高齢者で手術の既往があることから、冷えによる便秘と考え
大建中湯(TJ-100)6パックを毎食前(分3)で服用するように処方しました。
多くの漢方方剤の1日量は3パックですが、大建中湯は飴が成分として入っているため
1日量が6パックと他の漢方方剤に比べ、どうしても多くなってしまいます。


漢方では、プルゼニドのような刺激性の薬は、身体を冷やすものと考えられています。
もともと冷えのある患者さんが薬でさらに冷え
朝方4時という、気温も体温も冷えている時間帯になって
冷えによる腹痛が出現したものと考えました。


患者さんは、治療開始2週間目にプルゼニドの量を半分の4錠まで減量でき
1カ月後にはプルゼニドを時々服用する程度まで便秘が改善しました。
プルゼニドの乱用は大腸メラノーシスの原因となり、注意が必要です。


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