砦なき者


鬱蒼とした森だ。


虫、小動物、獣・・・
それら大小の命が
せせらぎの水に
土に
葉陰に
木の幹に
息をひそめて隠れ
餌を食らおうと機会を窺っている。


日が陰ると
それまで木漏れ日が靄(もや)の中を
放射線状に差し込んでいた清涼な森は
様相を一変させる。


空気が湿っぽくなり
あたりは冷え冷えとし
木立の彼方から獣の遠吠えが聞こえてくる。


小動物は身の危険を感じて姿を消し
生命の源であった森は
弱肉強食の容赦ない世界となる。


野沢尚砦なき者』より一部改変