早朝のまどろみの中
遠雷が轟き、スコールが降り出した。
春雷は好きだ。
雷が鳴って、女の子に抱きつかれた思い出があるわけではない。
幼いころ、僕は京都の御室(おむろ)にある
母の友人宅に連れて行かれた。
その家は鹿おどしがあって、竹林があるような豪邸だった。
そこで僕は変なにおいの石鹸で手を洗わされて
ずっと変なにおいが手にこびりついたまま
何日もそのにおいがとれなかった記憶がある。
その時、その豪邸付近で
雷が延々と鳴り続けていたのだ。
それが雷が好きな理由になるはずもないし
それが春だったかも覚えていないが
なぜか僕は春雷が好きなのだ。