渋谷

Xが渋谷でおごってくれるというので
ハチ公前で待ち合わせた。


「いい店があるんだよ。」
Xは早足にスタスタと人ごみを掻き分けて
僕を先導する。


Xはふと、コンビニで立ち止まり
「ビールどれくらい飲む?」と聞いてきた。
Xはビールを買い込んで、ポテトチップスも買った。
「おいおい、持込みの店かよ?」僕は不安になる。
僕は粋な小料理屋を期待して目いっぱい腹を空かせてきたのだ。


そして、僕はある店に案内される。
なんと喫茶店だった。
Xは店の若い女性に「よう」と挨拶して
買ってきたビールを厨房の冷蔵庫に突っ込んだ。


「何食べる?」
「何があるんだよ。ここは喫茶店じゃねぇか」
「出前だよ。隣にネパール料理屋があるんだが、どうだ?」
「喫茶店で出前なんかとっていいのか?」
「いいんだよ。この店は俺がオーナーなんだ。」


ほぅー。
Xは年収1000万円超のサラリーマンだが
副業をやっていたとは知らなかった。


ボサノバが流れる喫茶店
夜は酒を飲ませるそうだが
客は僕ら以外に1組だけだった。


やがてネパール人が出前を持ってきた
ネパール餃子のモモとカレーを食べながら彼の話を聞く。


彼は近々、千葉のビーチにアパートを建てる計画で
僕に管理人をやらないかと持ちかけてきた。
いや、僕はこれから南の島で働くんだよ、と断った。