夕方、暗くなる頃、大濠公園で走ったあと、
天神のダイエーで、うまそうな生鮭を買って帰る。
家に着いた時、家の鍵を無くしたことに気づいた。
まあ、いいさ。
こんな時のために会社のデスクの引き出しに、スペアキーを入れている。
日曜日でも会社には守衛さんがいて、取りに行くことができるのだ。
会社に行くと、シャッターがしまっていた。
呼び鈴やインターホンはない。
遠く離れた公衆電話から電話してみるが、誰も出ない。
会社に戻って
シャッターの小窓から覗き込んでみると、明かりが点いている。
「すいませーん!」
と何度も小窓から大声で呼びかけるが、反応は無い。
道行く人が不審な目で見る。
Tシャツとジャージの不審なオッサンが会社を覗き込んでいるのだ。
通報されるかも知れない。
会社はあきらめて公衆電話に戻る。
タウンページで調べて
地下鉄の駅、ダイエー、交番に電話してみたが
落し物は届いていないとのこと。
誰かに助けを求めるにも携帯電話が無く
誰の電話番号も覚えていない。
合い鍵を持っている女もいないし
家に泊めてくれる知り合いも無い。
これは寂しい話だ。
孤立無援のホームレス状態になった。
地下鉄に乗って
もう一度、大濠公園に戻って、ぐるりと一周してみる。
暗くてよく見えない。
駅のプラットフォームも探してみるが、鍵は見つからない。
ポケットの中に残っているものは
現金4600円と地下鉄のカードだけだ。
公衆電話でタウンページを見て、安いホテルを探してみる。
ウェルビーというカプセルホテルが3800円(税別)とあった。
サウナと併設になっているものだ。
ダイエーで買った生鮭はあきらめて
近所の猫が通りそうなところに置いて、ウェルビーに向かう。
カプセルホテルで住所を書かされる。
「福岡市博多区×××××」
近所に住んでいるのに、なぜカプセルホテルに泊まりにくるのか?
Tシャツとジャージの格好で、持ち物はダイエーのビニール袋1個だけだ。
これは不審なオッサンだろう。
だが、何も質問されなかった。
ホームレスのオッサンがアルミ缶の収入が貯まったので
贅沢しに来た、とでも思っているのか?
ならば、「住所不定」と書けば良かったね。
浴場で汗を流して、カプセルの中に入って時間を見ると
夜10時前になっていた。
右往左往してけっこう時間を潰したんだね。
おかげでかなり運動ができた。
残りの金で買った缶ビールをあおって眠る。
金が無ければ、野宿だったね。
P.S. 翌日の朝、生鮭はきれいに無くなっていました。
ジョギング 走る